「ツボ」で検索した結果:237 件

鍼灸に関する質問 鍼灸の効果・手や足先マッサージ -「東洋療法雑学事典」より

foot12a

東洋療法学校協会の公式サイトの「東洋療法雑学事典」をご紹介させていただきます。
今回は次のテーマについてです。

Q:鍼灸の効果はすぐに出ますか?
Q:トップアスリートの方が手や足の先をマッサージするといいと言っていたのですが、本当ですか?
「鍼灸に関する質問 鍼灸の効果・手や足先マッサージ -「東洋療法雑学事典」より」の続きを読む »

鍼灸

急性期脳卒中患者にリハビリと鍼を併用した観察研究

松浦悠人、建部陽嗣

脳卒中患者への鍼灸治療研究が増えてきた

 脳卒中は、脳の血管が破れたり(脳出血、くも膜下出血)、詰まったり(脳梗塞、一過性脳虚血発作)することによって脳の働きに障害が起こる疾患である。脳卒中を発症すると、高次脳機能障害、構音障害、運動障害、感覚障害、自律神経障害、精神症状など多種多様な症状がみられる。さらに、寝たきりの状態が続くと筋萎縮や骨粗しょう症、認知症の進行などの「廃用症候群」をきたし、より複雑な症状を呈する。

 かつては脳卒中が日本人の死因第1位であったが、薬物の開発や医療技術の進歩により患者数は減少傾向にある。しかし、脳卒中を発症すると後遺症や合併症によって要介護状態となる可能性もあるため、一命をとりとめた患者の生活の質(QOL)を保つことが大切である。
 その方法のひとつがリハビリテーションである。

 脳卒中リハビリテーションは、①廃用症候群の予防とセルフケアの早期自立を目指す急性期、②日常生活に必要な動作や機能回復を目指す回復期、③回復期に取り戻した機能を保つ維持期、の3つに分けることができる。脳卒中発症によって失われた生活に必要な能力を取り戻すために、発症後早期からリハビリテーションが行われている。

 世界に目を向けると、鍼灸治療も脳卒中患者に広く用いられている。脳卒中モデル動物による実験では、鍼刺激によって神経障害と脳浮腫の改善、神経新生の促進が確認されている[1]。さらに、合併症のひとつである肩手症候群へのリハビリテーションに鍼灸を併用すると、痛みの軽減や日常生活動作の改善に効果的であることが示された[2]。

Fuらが脳卒中患者100人の臨床データを解析

 このように、脳卒中患者への鍼灸治療は、脳の神経機能を回復させるとともに、症状の軽減に成功していることが数多く報告されている。つまり、リハビリテーションと鍼灸治療とを組み合わせることで、より大きな効果が期待できる可能性がある。しかし、現在までのところ、神経機能や予後の改善に対するリハビリテーションと鍼灸治療の併用効果に関する研究はまだ少ない。

 そんななか、2022年2月に武漢市中医医院のFuらは「Effect of Acupuncture and Rehabilitation Therapy on the Recovery of Neurological Function and Prognosis of Stroke Patients(脳卒中患者の神経機能回復と予後に対する鍼灸治療とリハビリテーションの効果)」を発表した(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8888046/)[3]。

 Fuらの研究は、カルテに残された臨床情報を分析する観察研究である。すでにある情報を過去に遡って利用するため「後ろ向き観察研究」と呼ばれる。脳卒中リハビリテーションに鍼灸治療を併用することによる効果の検証を目的として、2019年1月~2021年7月までに来院した100人の脳卒中患者を、その治療履歴から「リハビリテーションと鍼灸治療を併用したグループ(鍼灸併用群)52例」と「リハビリテーションのみのグループ(リハのみ群)48例」に分け、2群の神経機能や予後を比較した。

 対象患者は、MRIまたは頭部CTにより脳卒中と診断され、発症から7日以内でバイタルサインが安定した55〜75歳の患者で、研究への参加に同意した者が組み入れられた。
 一方、意識障害のある者、重度の外傷のある者、悪性腫瘍のある者、肝臓や腎臓などの脳以外の臓器に損傷のある者、鍼灸治療中に失神する可能性のある者は対象外とされた。

リハビリメニューと鍼灸併用群に用いた経穴、評価項目

 鍼灸併用群とリハのみ群は、どちらも脳卒中への標準的な治療とリハビリテーションを受けた。リハビリテーションは、発症から48時間後の時点で、意識鮮明でバイタルサインが安定しており、神経障害の進行・悪化がみられない場合に開始された。実際に行われたリハビリテーションは、単純な動作から複雑な動作へ変換、徐々に運動量を増加、受動的から能動的なトレーニングといったように改善のレベルに合わせて変化させた。具体的には、(1)良肢位の保持、(2)関節運動トレーニング、(3)体位変換、(4)バランストレーニング、(5)嚥下機能訓練が行われた。四肢機能については、1日1回30分間のトレーニングが1カ月間実施された。

 鍼灸併用群の患者は上記のリハビリテーションに加えて、鍼灸治療が行われた。使用経穴は症状別に選択され、片麻痺には、肩髃、合谷、環跳、手三里、陽陵泉、足三里、太衝、腎兪、大椎、十二井穴、委中、外関など、構音障害には、瘂門、廉泉、通里など、口の歪みには、頬車、太衝、水溝、合谷などの経穴が用いられた。

 また、患者の手足に単収縮や響きを感じさせるために、雀啄術が行われた。他のツボは、補瀉の方法に則り操作され、両側の経穴に3cm以内の深度で刺鍼された。刺鍼後、25〜30分間置鍼された。鍼灸治療の頻度は、1日1回×7日間を1コースとして合計4コース(=28日間)行われた。

 主要評価項目は、治療後の神経学的スコアの変化が81%以上を「とても有効」、36~80%を「有効」、35%以下を「効果がない」とした。治療前後の神経障害の評価には急性の脳卒中患者の神経障害の評価に最も使用されている米国国立衛生研究所脳卒中スケール(The National Institutes of Health Stroke Scale: NIHSS)という尺度が用いられた。

鍼の併用で運動機能や嚥下機能、気分状態も改善

 結果は、鍼灸併用群では「とても有効」30例(57.69%)、「有効」20例(38.46%)、「効果がない」2例(3.85%)、全体の奏効率は50例(96.15%)であった。一方、リハのみ群では「とても有効」22例(45.83%)、「有効」16例(33.33%)、「効果がない」10例(20.83%)、全体の奏効率は38例(79.17%)であり、鍼灸治療を併用していた鍼灸併用群の方が高い奏効率が得られた(図1)。

 また、NHISSの点数でも、治療前には鍼灸併用群22.16±2.7点、リハのみ群22.44±2.95点で2群に差はなかったが、治療後には鍼灸併用群11.24±1.12点、リハのみ群17.19±1.23点となり鍼灸併用群で統計的に有意な症状の減少がみられた。

 その他の指標として、血漿中のコルチゾールやニューロペプチドY、運動機能の評価にFMAスケール、ADLの評価にバーセルインデックス、バランス能力の評価にバーグバランススケール(Berg Balance Scale:BBS)、嚥下機能の評価にM.D.アンダーソンがんセンター版症状評価票(MD Anderson Dysphagia Inventory:MDADI)、気分状態の評価に自己評価式抑うつ性尺度(Self-rating Depression Scale:SDS)と自己評価尺度(Self-rating Anxiety Scale:SAS)、QOLの評価にWHO Quality of Life 100(WHOQOL-100)スケールが用いられ、すべての項目において観察グループで治療後でのポジティブな結果が得られた(図2)。

acupopj_ronko_20220527a

acupopj_ronko_20220527b

  このように、急性期脳卒中リハビリテーションに鍼灸治療を併用することは、リハビリテーション単独よりも神経機能の改善に優れており、さらに運動機能や嚥下機能、ネガティブな気分状態、ADL、QOLの改善にも効果的であった。Fuらは、脳卒中患者への鍼灸刺激による効果には、リフレッシュと機能回復、腫脹の軽減とうっ血の除去、筋肉と側副路の弛緩、フリーラジカル生成の抑制、脳浮腫の軽減、炎症反応の抑制、興奮性アミノ酸の放出の減少などが機序として考えられると述べている。

 また、鍼灸を併用した鍼灸併用群では、客観的な指標である血漿中コルチゾールとニューロペプチドYの減少もみられた。血漿コルチゾール濃度の上昇
は、脳出血などの疾患が生じる可能性が高いことを示している。ニューロペプチドYは、血中での濃度が上昇すると血管収縮を引き起こし、脳の血流を減少させることで脳卒中症状の悪化につながる。Fuらの研究では、血漿中コルチゾールとニューロペプチドYが減少しており、この結果も鍼灸治療の効果を客観的に裏付けるものである。

観察研究からランダム化比較試験への発展が待たれる

 以上がFuらの研究の結果である。脳卒中発症後のリハビリテーションは、患者の神経機能の回復や生活の自立、QOLを保つためにも非常に重要である。Fuらの研究は、脳卒中リハビリテーション単独よりも鍼灸治療を併用することで脳卒中患者の神経障害と関連する多くの症状の改善に効果的であることを示した。この結果は、脳卒中患者に関わる多くの鍼灸師の手応えを形にした、臨床的に価値のある論文ではないだろうか。

しかし、本研究結果をそのまま鵜呑みにして解釈しないよう注意が必要である。

 筆者がそう考える理由にはふたつある。

 ひとつは、統計手法の問題である。今回は「輪切り検定」と呼ばれる統計的に有意差の出やすい方法で統計解析が行われている。そのため、統計学的な有意差のみで効果を判断していけない。

 もうひとつは、今回の研究はあくまで観察研究だということである。観察研究で治療効果を検証するにはいくつかの注意点がある。治療効果を比較するためには、比較する2群の背景が同じでなければならない。これは、「片方の群に重症者が偏ってしまった」といった比較に影響する要因をなくすためである。2群の背景を均等にできる方法がランダム化比較試験であり、治療の有効性を評価するのに最も適した研究デザインであることは間違いない。つまり、今回のFuらの観察研究では、鍼灸の受療経験の有無でグループ分けしているため、両群の背景が異なっているかもしれないのだ。そのため、どちらかのグループの効果が過大評価、あるいは過小評価されている可能性を念頭に置いて結果を解釈する必要がある。

 とはいうものの、観察研究の結果が全く信頼できないというわけではない。実際の臨床データを用いたいわゆる「リアルワールド」なデータであり、今後の比較試験につながる貴重な研究である。臨床データを測定し、記録しておくことで今回のような臨床研究を行うことが可能である。Fuらの研究は、日々の臨床のなかでの測定の重要性を再確認させるものだといえるだろう。

【参考文献】
1.Lu L, et al. Acupuncture for neurogenesis in experimental ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2016;6:19521.
2.Peng L, et al. Traditional manual acupuncture combined with rehabilitation therapy for shoulder hand syndrome after stroke within the Chinese healthcare system: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2018;32(4):429-439.
3.Fu L, et al. Effect of Acupuncture and Rehabilitation Therapy on the Recovery of Neurological Function and Prognosis of Stroke Patients. Comput Math Methods Med. 2022;2022:4581248.

鍼灸に関する質問 鍼で美人・鍼灸学校・接骨院との違い -「東洋療法雑学事典」より

biyou15a

東洋療法学校協会の公式サイトの「東洋療法雑学事典」をご紹介させていただきます。
今回は次のテーマについてです。

Q:鍼で美人になれますか?
Q:鍼灸学校ではどんな勉強をしますか?
Q:鍼灸院と鍼灸接骨院の違いは何ですか?
「鍼灸に関する質問 鍼で美人・鍼灸学校・接骨院との違い -「東洋療法雑学事典」より」の続きを読む »

鍼灸

「脳腸相関」による不安やうつ症状は鍼灸で改善できるか

acupopj_ronko_20220421b2

松浦悠人

 脳腸相関という言葉が、今注目されている。

 脳腸相関とは、脳の状態が腸に影響し、腸の状態もまた脳に影響するといった双方向的な関係のことである。鍼灸臨床の場面でも、ストレスを感じると胃が痛くなったり下痢をしてしまったりする患者に遭遇することは珍しくない。

 脳腸相関による疾患として挙げられるのが機能性消化管疾患(functional gastrointestinal disorders: FGID)である。全世界の40%の人々が罹患しているとの報告があるほど身近なものである[1]。このFGIDには、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)、機能性ディスペプシア(functional dyspepsia: FD)、機能性便秘(functional constipation: FC)機能性下痢(functional diarrhoea: FDr)などが含まれ、検査をしても異常が認められないにもかかわらず、胃や腸の不快な症状が出現する。

脳と機能性消化疾患患者の気分症状に対する鍼治療の有効性を評価

 FGID患者の多くは不安やうつなど、いわゆる気分症状を有している。そして、胃腸症状の悪化は気分状態をさらに悪化させ、悪化した気分状態によって胃腸症状のさらなる増悪を招く。そのため、FGID患者の気分症状に対しても着目することが重要となる。

 現在、FGIDの不安やうつに対する治療として抗不安薬や抗うつ薬が使用されており、FDやIBSの診療ガイドラインにおいて弱いものの、推奨されている[2][3]。しかし、抗不安薬では依存性の問題、抗うつ薬では副作用の問題によりその使用が制限されることも少なくない。

 鍼治療は、薬物療法や偽鍼治療と比較してもFGID患者の胃腸症状を改善することが報告されている[4]。さらに、うつ病や不安障害などに対する有効性が示されていることから[5]、鍼治療がFGID患者の気分症状に対しても効果が期待できる。しかし、これまでの研究では、主に胃腸症状への効果のみに焦点が当てられていた。

 そんななか、2022年1月山東中医薬大学のWangらが「Acupuncture for emotional symptoms in patients with functional gastrointestinal disorders: A systematic review and meta-analysis(機能性消化管疾患患者の情動症状に対する鍼治療:システマティックレビューとメタアナリシス)」を発表した(doi: 10.1371/journal.pone.0263166. )[6]。この研究は、ランダム化比較試験(randomized controlled trials: RCT)を網羅的に収集し質を吟味するシステマティックレビューと、集めた研究を統計学的に統合するメタアナリシスという手法により、FGID患者の気分症状に対する鍼治療の有効性を評価したものである。

24文献、2,151人の参加者を定量的に解析

 Wangらのレビューは、FD、IBS、FC、FDrなどFGIDと診断された患者のRCTを対象とし、会議録(conference abstracts)、論説、総説、症例報告、症例集積、重複データなどは除外された。鍼治療グループは、鍼治療や鍼通電療法、耳鍼、頭鍼など「経穴に鍼を刺入する治療」を受けた患者と定義され、比較対照のコントロールはsham鍼治療または薬物療法を受けた患者とした。

 不安とうつの評価尺度には、自己評価式不安尺度(self-rating anxiety scale: SAS)、自己評価式うつ尺度(self-rating depression scale: SDS)、ハミルトン不安評価尺度(Hamilton Anxiety Rating Scale: HAM-A)、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale: HAM-D)、patient health questionnaire-9(PHQ-9)、generalized anxiety disorder-7(GAD-7)が用いられた。

 文献の検索は、3つの英語文献データベースと5つの中国語文献データベースを用いて、2021年7月31日までに公開されたRCT論文が収集された。さらに、文献の漏れを防ぐためにGoogle ScholarやChiCTR(中国の臨床試験登録簿)の検索、その他の論文記事や会議録(conference proceedings)を手作業で検索している。

 集められた文献をもとに、著者名、発行年、組入れ/除外基準、サンプル数、鍼治療の種類、使用経穴、対照群の治療、評価項目などの情報が抽出された。さらに、それぞれのRCTに含まれるバイアスリスクを評価するため、Risk of Bias 2(RoB 2)というツールを使用して、RCTのバイアスリスクを「低リスク」「懸念あり」「高リスク」に分類した。これらの文献の収集・スクリーニングからの情報抽出、バイアスリスクの評価は、すべて2人の研究者によって行われ、意見の不一致があった場合には3人目の研究者が決定した。

 上記の方法による検索の結果、最終的に24文献、2,151人の参加者が定量的な解析に含まれた。これら研究の特徴として、サンプルサイズは34~348、治療期間は2~10週間の範囲で行われていた。また、鍼治療グループでは、17件で鍼通電療法、7件でマニュアル鍼治療(置鍼や雀啄など)が行われ、コントロールグループでは、4件でsham鍼治療、20件で薬物療法が行われていた。うつと不安の評価尺度については、SASとSDSが17件ずつ、HAM-D が5件、HAM-Aが4件、PHQ-9とGAD-7が1件ずつ使用されていた。

薬物療法よりも鍼治療のほうが不安とうつ症状を軽減

 鍼治療とsham鍼治療を比較した4研究をまとめた結果では、不安とうつ症状ともに鍼治療とsham鍼治療との間に有意差は認められなかった。これらはFD、IBS、FC、FDrなど疾患別に解析しても同様の結果であった。

 しかし、使用経穴に注目して解析してみると、鎮静化によく用いられる経穴(鎮静化経穴:百会、印堂、四神総などうつ病に効果があるとされる経穴)が用いられていた場合、鍼治療がFDIG患者のうつ症状をsham鍼治療より有意に軽減することが示された。なお、4研究すべてで非経穴への2~3mmの浅い刺鍼をsham鍼治療としていた。

 一方、鍼治療と薬物療法を比較した20研究をまとめた結果では、鍼治療は薬物療法と比較し、不安とうつ症状を有意に軽減した。疾患別に解析しても、不安症状はFD、IBS、FC、FDrのすべてで、うつ症状はFD、IBS、FDrの患者で、薬物療法に対して鍼治療のほうが有意に症状軽減を生じさせていた。薬物療法との比較においては、鎮静化経穴の使用や鍼通電かマニュアル鍼治療なのかなどの鍼治療の種類による結果への影響はなかった(表1)。

表1 鍼治療との有意差の有無(機能性消化管疾患)
acupopj_ronko_20220421b2

 鍼治療の安全性についても9件の研究で報告されており、鍼治療グループとコントロールグループの間に有意差がないことが示された。

気分を改善するツボを使用したほうが結果良好

 以上をまとめると、鍼治療はsham鍼治療との間に有意差を認めなかったが、薬物療法と比較すると有意に不安とうつ症状を軽減した。Wangらの研究は、収集された研究の質が低~中程度であることや、特異的/非特異的効果、プラセボ効果などの関与に関して不明な点はいくつかあるものの、鍼治療がFGID患者の胃腸症状だけでなく、気分症状に対しても効果的である可能性を示した最初のシステマティックレビューである。

 興味深い点は、sham鍼治療との比較において、百会や印堂、四神総といったうつ症状に効果的とされる経穴を使用すると、より症状を軽減させることである。鍼治療とsham鍼治療との間に有意差がなく、鍼治療と薬物療法との間に有意な差がみられたということは、鍼治療に非特異的な効果が多く含まれていることを意味している。しかし、一部経穴に特異的効果がある可能性も示唆されており、気分症状の目立つFGID患者に鍼治療を行う際には、積極的に気分に効果的な鎮静化経穴を用いることがいいといえる。

 さらに、Wangらは腸内細菌叢に及ぼす鍼灸治療のメカニズムからも今回の結果を考察している。先行研究によると、天枢、足三里、上巨虚への鍼灸刺激によって腸内細菌叢のバランスを調節できる[7-10]。これらの経穴は本研究に含まれた論文でも多く用いられていた。

 腸内毒素症は、不安やうつの原因となることから、胃腸症状によく使われる経穴も、脳腸相関によって気分症状の改善に関与しているとも考えられる。しかし、Wangらが引用している先行研究の多くは灸治療が中心であることから、この説には少し懐疑的な点もある。臨床的には、FGID患者の胃腸症状に灸治療はよく用いられ、治療効果を実感する患者も多いのではないだろうか。腸内細菌叢へのメカニズムを考慮すると灸治療も有用な選択肢であり、今後の重要な研究課題となるであろう。

日本でも機能性消化管疾患に対する鍼の臨床試験を

 本研究は、24件中23件が中国からの論文であること、個々の研究のサンプルサイズの小ささ、質の低さなどの問題点はあるが、FGID患者の気分症状への有効性を十分に示唆するものであった。旧版の機能性消化管疾患診療ガイドライン2014では、FDとIBSともに「鍼灸治療にプラセボ以上の効果はない」と有効性を示すエビデンスがなく、推奨も提案もされていなかった[11][12]。それから約6年を経て、FD(2021年)では提案や推奨はないものの鍼治療の有用性を示唆する記載[2]、IBS(2020年)では、鍼灸治療を代替療法として行うことが提案されている[3]。

 こうした進歩は間違いなく臨床研究の積み重ねによるものである。しかし、依然として本邦から臨床試験が行われていない状況は変わっていない。鍼灸治療は、FGIDの胃腸症状と気分症状のどちらにもアプローチできる有用性の高い治療法であることから、次回の診療ガイドラインの改定時には、本邦での臨床試験からのエビデンスを含みより高い推奨度を得ることが大きな目標となる。

【参考文献】
1. Sperber AD, Bangdiwala SI et al. Worldwide Prevalence and Burden of Functional Gastrointestinal Disorders, Results of Rome Foundation Global Study. Gastroenterology. 2021;160: 99-114.e3.
2. 日本消化器病学会(編).機能性消化管疾患ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD). 第2版. 南江堂.
3. 日本消化器病学会(編). 機能性消化管疾患ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS). 第2版. 南江堂.
4. Wang X, Wang H et al. Acupuncture for functional gastrointestinal disorders: a systematic review and meta-analysis. J Gastroenterol Hepatol 2021;36(11):3015-3026.
5. Smith CA, Armour M et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 4; 3:CD004046.
6. Wang L, Xian J et al. Acupuncture for emotional symptoms in patients with functional gastrointestinal disorders: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2022;27;17(1):e0263166. doi: 10.1371/journal.pone.0263166.
7. Wang X-M, Lu Y et al. Moxibustion inhibits interleukin-12 and tumor necrosis factor alpha and modulates intestinal flora in rat with ulcerative colitis. World J Gastroenterol. 2012;18: 6819-6828.
8. Wei D, Xie L et al. Gut Microbiota: A New Strategy to Study the Mechanism of Electroacupuncture and Moxibustion in Treating Ulcerative Colitis. Evid Based Complement Alternat Med. 2019;2019: 9730176.
9. Wang L-J, Xue T et al. Effect of acupuncture on intestinal flora in rats with stress gastric ulcer. Zhongguo Zhen Jiu. 2020;40: 526-532.
10. Sun H, Zhang B et al. Effect of warm-needle moxibustion intervention on immune function and intestinal flora in patients after colorectal cancer radical operation. Zhen Ci Yan Jiu. 2021;46: 592-597.
11. 日本消化器病学会(編).機能性消化管疾患ガイドライン2014-機能性ディスペプシア(FD). 第1版. 南江堂.
12. 日本消化器病学会(編). 機能性消化管疾患ガイドライン2014-過敏性腸症候群(IBS). 第1版. 南江堂.

鍼灸に関する質問 顔への灸・通院ペース・感染 -「東洋療法雑学事典」より

東洋療法学校協会の公式サイトの「東洋療法雑学事典」をご紹介させていただきます。
今回は次のテーマについてです。

Q:顔にもお灸をするのですか?
Q:鍼灸院にはどのくらいのペースで通えばいいですか?
Q:鍼治療で感染することはないのですか?
「鍼灸に関する質問 顔への灸・通院ペース・感染 -「東洋療法雑学事典」より」の続きを読む »

鍼灸

鍼灸に関する質問 鍼灸の期待・経絡秘孔・やけど -「東洋療法雑学事典」より

東洋療法学校協会の公式サイトの「東洋療法雑学事典」をご紹介させていただきます。
今回は次のテーマについてです。

Q:鍼灸院に通うとどのような事が期待できますか?
Q:経絡秘孔(けいらくひこう)ってあるのですか?
Q:お灸するとヤケドができますか?
「鍼灸に関する質問 鍼灸の期待・経絡秘孔・やけど -「東洋療法雑学事典」より」の続きを読む »

鍼灸
サブコンテンツ