東洋療法学校協会の公式サイトの「東洋療法雑学事典」をご紹介させていただきます。
今回は次のテーマについてです。
Q:鍼で美人になれますか?
Q:鍼灸学校ではどんな勉強をしますか?
Q:鍼灸院と鍼灸接骨院の違いは何ですか?
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鍼灸論考の「新・鍼灸ワールドコラム」第10回連載記事を公開しました。
・「脳腸相関」による不安やうつ症状は鍼灸で改善できるか
詳しくは「鍼灸論考」のページをご参照ください。
◆鍼灸論考 – AcuPOPJ「鍼灸net」連載企画
https://shinkyu-net.jp/ronkou
※今回の連載記事への直接リンクはこちらです。→ 「脳腸相関」による不安やうつ症状は鍼灸で改善できるか
鍼灸論考で建部陽嗣氏が執筆中の連載「新・鍼灸ワールドコラム」は、第10回より東京有明医療大学の松浦悠人氏との共同執筆となります。松浦氏は次代の鍼灸研究を担う期待の星! 第10回の記事は近日公開予定です。お楽しみに!
松浦氏のプロフィールはこちら → 鍼灸論考 松浦悠人氏プロフィール
松浦悠人
脳腸相関という言葉が、今注目されている。
脳腸相関とは、脳の状態が腸に影響し、腸の状態もまた脳に影響するといった双方向的な関係のことである。鍼灸臨床の場面でも、ストレスを感じると胃が痛くなったり下痢をしてしまったりする患者に遭遇することは珍しくない。
脳腸相関による疾患として挙げられるのが機能性消化管疾患(functional gastrointestinal disorders: FGID)である。全世界の40%の人々が罹患しているとの報告があるほど身近なものである[1]。このFGIDには、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)、機能性ディスペプシア(functional dyspepsia: FD)、機能性便秘(functional constipation: FC)機能性下痢(functional diarrhoea: FDr)などが含まれ、検査をしても異常が認められないにもかかわらず、胃や腸の不快な症状が出現する。
FGID患者の多くは不安やうつなど、いわゆる気分症状を有している。そして、胃腸症状の悪化は気分状態をさらに悪化させ、悪化した気分状態によって胃腸症状のさらなる増悪を招く。そのため、FGID患者の気分症状に対しても着目することが重要となる。
現在、FGIDの不安やうつに対する治療として抗不安薬や抗うつ薬が使用されており、FDやIBSの診療ガイドラインにおいて弱いものの、推奨されている[2][3]。しかし、抗不安薬では依存性の問題、抗うつ薬では副作用の問題によりその使用が制限されることも少なくない。
鍼治療は、薬物療法や偽鍼治療と比較してもFGID患者の胃腸症状を改善することが報告されている[4]。さらに、うつ病や不安障害などに対する有効性が示されていることから[5]、鍼治療がFGID患者の気分症状に対しても効果が期待できる。しかし、これまでの研究では、主に胃腸症状への効果のみに焦点が当てられていた。
そんななか、2022年1月山東中医薬大学のWangらが「Acupuncture for emotional symptoms in patients with functional gastrointestinal disorders: A systematic review and meta-analysis(機能性消化管疾患患者の情動症状に対する鍼治療:システマティックレビューとメタアナリシス)」を発表した(doi: 10.1371/journal.pone.0263166. )[6]。この研究は、ランダム化比較試験(randomized controlled trials: RCT)を網羅的に収集し質を吟味するシステマティックレビューと、集めた研究を統計学的に統合するメタアナリシスという手法により、FGID患者の気分症状に対する鍼治療の有効性を評価したものである。
Wangらのレビューは、FD、IBS、FC、FDrなどFGIDと診断された患者のRCTを対象とし、会議録(conference abstracts)、論説、総説、症例報告、症例集積、重複データなどは除外された。鍼治療グループは、鍼治療や鍼通電療法、耳鍼、頭鍼など「経穴に鍼を刺入する治療」を受けた患者と定義され、比較対照のコントロールはsham鍼治療または薬物療法を受けた患者とした。
不安とうつの評価尺度には、自己評価式不安尺度(self-rating anxiety scale: SAS)、自己評価式うつ尺度(self-rating depression scale: SDS)、ハミルトン不安評価尺度(Hamilton Anxiety Rating Scale: HAM-A)、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale: HAM-D)、patient health questionnaire-9(PHQ-9)、generalized anxiety disorder-7(GAD-7)が用いられた。
文献の検索は、3つの英語文献データベースと5つの中国語文献データベースを用いて、2021年7月31日までに公開されたRCT論文が収集された。さらに、文献の漏れを防ぐためにGoogle ScholarやChiCTR(中国の臨床試験登録簿)の検索、その他の論文記事や会議録(conference proceedings)を手作業で検索している。
集められた文献をもとに、著者名、発行年、組入れ/除外基準、サンプル数、鍼治療の種類、使用経穴、対照群の治療、評価項目などの情報が抽出された。さらに、それぞれのRCTに含まれるバイアスリスクを評価するため、Risk of Bias 2(RoB 2)というツールを使用して、RCTのバイアスリスクを「低リスク」「懸念あり」「高リスク」に分類した。これらの文献の収集・スクリーニングからの情報抽出、バイアスリスクの評価は、すべて2人の研究者によって行われ、意見の不一致があった場合には3人目の研究者が決定した。
上記の方法による検索の結果、最終的に24文献、2,151人の参加者が定量的な解析に含まれた。これら研究の特徴として、サンプルサイズは34~348、治療期間は2~10週間の範囲で行われていた。また、鍼治療グループでは、17件で鍼通電療法、7件でマニュアル鍼治療(置鍼や雀啄など)が行われ、コントロールグループでは、4件でsham鍼治療、20件で薬物療法が行われていた。うつと不安の評価尺度については、SASとSDSが17件ずつ、HAM-D が5件、HAM-Aが4件、PHQ-9とGAD-7が1件ずつ使用されていた。
鍼治療とsham鍼治療を比較した4研究をまとめた結果では、不安とうつ症状ともに鍼治療とsham鍼治療との間に有意差は認められなかった。これらはFD、IBS、FC、FDrなど疾患別に解析しても同様の結果であった。
しかし、使用経穴に注目して解析してみると、鎮静化によく用いられる経穴(鎮静化経穴:百会、印堂、四神総などうつ病に効果があるとされる経穴)が用いられていた場合、鍼治療がFDIG患者のうつ症状をsham鍼治療より有意に軽減することが示された。なお、4研究すべてで非経穴への2~3mmの浅い刺鍼をsham鍼治療としていた。
一方、鍼治療と薬物療法を比較した20研究をまとめた結果では、鍼治療は薬物療法と比較し、不安とうつ症状を有意に軽減した。疾患別に解析しても、不安症状はFD、IBS、FC、FDrのすべてで、うつ症状はFD、IBS、FDrの患者で、薬物療法に対して鍼治療のほうが有意に症状軽減を生じさせていた。薬物療法との比較においては、鎮静化経穴の使用や鍼通電かマニュアル鍼治療なのかなどの鍼治療の種類による結果への影響はなかった(表1)。
鍼治療の安全性についても9件の研究で報告されており、鍼治療グループとコントロールグループの間に有意差がないことが示された。
以上をまとめると、鍼治療はsham鍼治療との間に有意差を認めなかったが、薬物療法と比較すると有意に不安とうつ症状を軽減した。Wangらの研究は、収集された研究の質が低~中程度であることや、特異的/非特異的効果、プラセボ効果などの関与に関して不明な点はいくつかあるものの、鍼治療がFGID患者の胃腸症状だけでなく、気分症状に対しても効果的である可能性を示した最初のシステマティックレビューである。
興味深い点は、sham鍼治療との比較において、百会や印堂、四神総といったうつ症状に効果的とされる経穴を使用すると、より症状を軽減させることである。鍼治療とsham鍼治療との間に有意差がなく、鍼治療と薬物療法との間に有意な差がみられたということは、鍼治療に非特異的な効果が多く含まれていることを意味している。しかし、一部経穴に特異的効果がある可能性も示唆されており、気分症状の目立つFGID患者に鍼治療を行う際には、積極的に気分に効果的な鎮静化経穴を用いることがいいといえる。
さらに、Wangらは腸内細菌叢に及ぼす鍼灸治療のメカニズムからも今回の結果を考察している。先行研究によると、天枢、足三里、上巨虚への鍼灸刺激によって腸内細菌叢のバランスを調節できる[7-10]。これらの経穴は本研究に含まれた論文でも多く用いられていた。
腸内毒素症は、不安やうつの原因となることから、胃腸症状によく使われる経穴も、脳腸相関によって気分症状の改善に関与しているとも考えられる。しかし、Wangらが引用している先行研究の多くは灸治療が中心であることから、この説には少し懐疑的な点もある。臨床的には、FGID患者の胃腸症状に灸治療はよく用いられ、治療効果を実感する患者も多いのではないだろうか。腸内細菌叢へのメカニズムを考慮すると灸治療も有用な選択肢であり、今後の重要な研究課題となるであろう。
本研究は、24件中23件が中国からの論文であること、個々の研究のサンプルサイズの小ささ、質の低さなどの問題点はあるが、FGID患者の気分症状への有効性を十分に示唆するものであった。旧版の機能性消化管疾患診療ガイドライン2014では、FDとIBSともに「鍼灸治療にプラセボ以上の効果はない」と有効性を示すエビデンスがなく、推奨も提案もされていなかった[11][12]。それから約6年を経て、FD(2021年)では提案や推奨はないものの鍼治療の有用性を示唆する記載[2]、IBS(2020年)では、鍼灸治療を代替療法として行うことが提案されている[3]。
こうした進歩は間違いなく臨床研究の積み重ねによるものである。しかし、依然として本邦から臨床試験が行われていない状況は変わっていない。鍼灸治療は、FGIDの胃腸症状と気分症状のどちらにもアプローチできる有用性の高い治療法であることから、次回の診療ガイドラインの改定時には、本邦での臨床試験からのエビデンスを含みより高い推奨度を得ることが大きな目標となる。
【参考文献】
1. Sperber AD, Bangdiwala SI et al. Worldwide Prevalence and Burden of Functional Gastrointestinal Disorders, Results of Rome Foundation Global Study. Gastroenterology. 2021;160: 99-114.e3.
2. 日本消化器病学会(編).機能性消化管疾患ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD). 第2版. 南江堂.
3. 日本消化器病学会(編). 機能性消化管疾患ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS). 第2版. 南江堂.
4. Wang X, Wang H et al. Acupuncture for functional gastrointestinal disorders: a systematic review and meta-analysis. J Gastroenterol Hepatol 2021;36(11):3015-3026.
5. Smith CA, Armour M et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 4; 3:CD004046.
6. Wang L, Xian J et al. Acupuncture for emotional symptoms in patients with functional gastrointestinal disorders: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2022;27;17(1):e0263166. doi: 10.1371/journal.pone.0263166.
7. Wang X-M, Lu Y et al. Moxibustion inhibits interleukin-12 and tumor necrosis factor alpha and modulates intestinal flora in rat with ulcerative colitis. World J Gastroenterol. 2012;18: 6819-6828.
8. Wei D, Xie L et al. Gut Microbiota: A New Strategy to Study the Mechanism of Electroacupuncture and Moxibustion in Treating Ulcerative Colitis. Evid Based Complement Alternat Med. 2019;2019: 9730176.
9. Wang L-J, Xue T et al. Effect of acupuncture on intestinal flora in rats with stress gastric ulcer. Zhongguo Zhen Jiu. 2020;40: 526-532.
10. Sun H, Zhang B et al. Effect of warm-needle moxibustion intervention on immune function and intestinal flora in patients after colorectal cancer radical operation. Zhen Ci Yan Jiu. 2021;46: 592-597.
11. 日本消化器病学会(編).機能性消化管疾患ガイドライン2014-機能性ディスペプシア(FD). 第1版. 南江堂.
12. 日本消化器病学会(編). 機能性消化管疾患ガイドライン2014-過敏性腸症候群(IBS). 第1版. 南江堂.
鍼灸論考の「鍼灸病証学」第10回連載記事を公開しました。
・五行色体表の成り立ちを正しく知る
詳しくは「鍼灸論考」のページをご参照ください。
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※今回の連載記事への直接リンクはこちらです。→ 五行色体表の成り立ちを正しく知る
篠原孝市
私は、本連載第7回「蔵府概念の根底にある陰陽五行」において、「〈陰陽〉〈五行〉という認識には二つの側面がある。一つは〈分類〉であり、もう一つは〈関係〉である」、「〈五蔵〉は、〈陰陽〉と〈五行〉の関係論に行き着いて初めて意味を持つ」と述べた。そして第8回「人体で繰り広げられる表裏の関係」から第9回〈「表裏〉関係とは〈病いの深さ〉の認識の一部である」において、〈蔵〉〈府〉と〈経脈〉の〈表裏〉について、古典と現在の古典的鍼灸の臨床の両面から解説した。
今回から〈五蔵〉〈六府〉の重要な側面の一つである〈五行〉の〈分類〉と〈関係〉について述べることとしよう。
『素問』『霊枢』『難経』には、〈五行〉的な〈分類〉や〈関係〉を述べた箇所が数多く見られる。
それらの中には、『素問』金匱真言論篇や陰陽応象大論篇のように、外部の自然から人間の身体各部や〈五蔵〉などに至る様々な分野の〈関係〉を、構造的に叙述した篇がある。
また『素問』宣明五気篇や『霊枢』九針論篇のように、カテゴリーごとに〈五行〉によって総括的に〈分類〉した篇もある。風熱湿燥寒の「五悪」、酸苦甘辛鹹の「五味」、皮脈肉筋骨の「五主」などがそれである。
この〈五行〉によるカテゴリー〈分類〉は、後に五蔵六府を基軸とするものに整理される。その最初の本格的な整理は、『脈経』巻第三の五つの章によって行われた。沈炎南主編『脈経校注』(1991)は、巻第三の巻末に〈五行〉による〈分類〉内容を要約した附表を加えるとともに、「本巻は中国医学の身体に対する有機的一体観に貫かれており、体内の各臓腑と組織器官、人体と外部の自然を密接に関連させて、総体的な考察研究を行っている」と評価している。
次いで唐代の『備急千金要方』巻第二十九・五蔵六腑変化傍通訣では、56条の表形式として整理された。これを承けた『外台秘要方』巻第三十九・五蔵六腑変化流注出入傍通ではさらに80条に増補された。
この表形式の「傍通」は、日本の江戸期前半の鍼灸書においても取り上げられている。意斎流の鍼書『意斉流針書』(1713奥書)、著者未詳の『鍼灸抜萃』(1676)とその系列書である『広益鍼灸抜萃』(1696)、安井昌玄『鍼灸要歌集』(1693)、本郷正豊『鍼灸重宝記』(1718)所載の「五蔵の色体」などがそれである。「色体」とは「傍通」の和語で、江戸期の意斎流から出ている可能性がある。また江戸後期には、浅井家が主宰する尾張医学館でも前記「五蔵六腑変化傍通訣」を「諸病主薬」「十四経穴分寸歌」と併せて刊行している(1839)。
この傍通訣(色体表)は、近代以降も、代田文誌、柳谷素霊、本間祥白らの著作に「五行(五蔵)の色体表」として載せられたことから広く知られた。彼らにとって、「色体表」は、『素問』『霊枢』『脈経』以来継承されてきた、身体を診るための伝統的な有機的全体観(現代中医学でいうところの「整体観念」)を象徴するものだったからである。ただ、1980年代以降に日本で作られた各種の鍼灸辞典の見出し語には、「傍通」や「色体表」の言葉を見いだすことはできない(見出し語の解説文中にはなお「五行色体表」などとして散見する)。
ポイント
用語解説
『脈経』(みゃっきょう):第1回用語解説参照。
沈炎南(しんえんなん):1920~1992。現代中国の中医師。広州中医学院(広州中医薬大学)教授などを歴任した。著書に『脈経校注』『脈経語訳』『中医学整体観』『肺病臨床実験録』『沈炎南医論医案集』などがある。
『備急千金要方』(びきゅうせんきんようほう):第3回の用語解説参照。
『外台秘要方』(げだいひようほう):第3回の用語解説参照。
意斎流(いさいりゅう):第3回の用語解説参照。
『鍼灸抜萃』(しんきゅうばっすい):著者未詳。3巻。延宝4年(1676)初刊。袖珍本に改変された『合類鍼灸抜萃』『広益鍼灸抜萃』もある。上巻は診察と施術、中巻は経穴、下巻は病証と主治を論じる。本書は江戸期に最も読まれた鍼灸書の一つで、安井昌玄『鍼灸要歌集』(1695)、著者未詳『鍼灸和解大全』(1698)、岡本一抱『鍼灸抜萃大成』(1699)、本郷正豊の編とされる『鍼灸重宝記』(1718)などはいずれも本書を基礎として著されたものと見られる。
安井昌玄(やすいしょうげん):江戸中期の鍼医。紀州の人。生没年未詳。唯一の著作『鍼灸要歌集』(1695)は、『鍼灸抜萃』(1676初刊)に基づいて著されたと見られる。
本郷正豊(ほんごうまさとよ):江戸中期の鍼医。生没年未詳。御園意斎の孫・常憲の次男。母方の実家をついで本郷姓を名乗った。『医道日用綱目』(一名「医道日用重宝記」「医道重宝記」。1692初刊)、『鍼灸重宝記』(一名「鍼灸重宝記綱目」。1718初刊)の著者とされている。
尾張医学館(おわりいがくかん):第3回の用語解説「尾張浅井家」参照。
〈五蔵〉を基軸とする〈分類〉は、身体のさまざまな現象を全体的、有機的、構造的に捉えるために必要である。中国医学には、〈蔵府〉と〈経脈〉以外に、身体の全体を捉える方法はないからである。しかも、身体の全体性とは、個々の〈蔵府〉や〈経脈〉によって捉えられるものではなく、〈関係〉の論理であるところの〈陰陽〉や〈五行〉を介して初めて見いだされるものなのである。そのことは、〈蔵府〉や〈経脈〉から〈陰陽〉や〈五行〉を完全に排除してみればわかるであろう。
以下、五蔵を基軸とする〈五行〉的な〈分類〉や〈関係〉の種々相について述べることにするが、その最初として、〈五蔵〉と外部の自然との〈関係〉を取り上げ、その意味について考えてみることにする。
ポイント
漢魏以前の伝承医学古典において、〈五蔵〉と循環する時間(春夏秋冬の「四時」に「長夏(季夏)」を加えた「五時」)あるいは空間(東西南北に中央を加えた「五方」)の関係を論じたものに、次のようなものがある(後世の附加とされる運気七篇を除く)。
『素問』四気調神大論篇、金匱真言論篇、陰陽応象大論篇、六節蔵象論篇、平人気象論篇、玉機真蔵論篇、蔵気法時論篇、宣明五気篇、欬論篇、風論篇、痺論篇、刺要論篇、水熱穴論篇、四時刺逆従論篇。
『霊枢』本神篇、陰陽繋日月篇、順氣一日分爲四時篇、論勇篇、五音五味篇。
『難経』十五難、五十六難、七十四難。
『傷寒論』平脈法。
『脈經』巻第三。
このうち、金匱真言論篇、玉機真蔵論篇、『難経』十五難は、〈四時〉あるいは〈五時〉に方位を加えた詳細な記載となっている。他方、〈五蔵〉と方位の〈関係〉だけに言及したものは陰陽応象大論篇しかなく、その他はすべて〈五蔵〉と春夏秋冬に関するものである。このことは、〈五蔵〉を考えるうえにおいて、春夏秋冬の問題が重要であることを示唆しているように思われる。これらの記述のうちから〈五行〉〈五時〉〈五方〉〈五蔵〉を抜萃すると、以下のよく知られた一覧表となる。
この表のうち、〈五行〉と〈五時〉〈五方〉は、後漢の『漢書』五行志や『白虎通』はもちろん、前漢の『春秋繁露』などにも見えるもので、医学の外の世界で形成されたカテゴリーである。古代中国医学は、こうした世界観の上にその学術を展開したのである。(注)へ
〈五蔵〉は内部にあって、見ることも触れることも、現代医学の臓器のように検査や実験でその機能も知ることも難しく、現れてくる所見の集積としてしか確認することができない。しかも、〈五蔵〉というものは、身体に現れるさまざまな所見の帰納法によって、つまり単に経験を積み重ねればその果てにその姿が浮かんでくるというものではない。たとえば腰痛や肩凝りは、それだけでは何の〈蔵〉に関わるものであるかわからないし、目や耳や鼻が何の〈蔵〉に配当されるものかは決められない。
したがって、〈五蔵〉をつかむためには、人体とは別の地点で、所見を〈五蔵〉に〈分類〉するための基準が作られる必要があった。それは、木火土金水の〈五行〉であり、春夏秋冬の〈四時〉、東西南北の〈四方〉(あるいは中央を含む〈五方〉)であった。
たとえば、〈五行〉の木、東方、春には、「風」「動」「発生」「蠢動」などの意味がある。これらを基準として、人体に同じような現れを探せば、身体が自在に動くこと、あるいは動かなくなること、瞼や顔面が痙攣すること、突然眩暈が起こることなどはすべて肝に関わる症状となる。こうした類推を経て初めて、肝は「木蔵なり」(『説文解字』)と断じられ、「肝は風を為す」(『淮南子』精神訓)と表現されたのである。
これはつまり、何を生理的状態とし、何を〈病い〉とするかという判断基準を、個人の主観とか倫理、社会一般の常識ではなく、人間の意思とは独立した外部の自然に置くということを意味する。
生病死の判断の物差しを、人間の意思とは独立した自然に置くことは、同時に、人間の中に自然を見いだすということでもある。しかし、そこからは必ずしも「自然に従って生きる」という倫理は生じてこないように思われる。
現実の人間は、身体も心も、何ものからも完全に切り離された自由で自立的な個体のように見え、またそのように振る舞っている。そして人間の〈自然性〉を私たちはコントロールできると感じ、筋肉やメンタルのトレーニングに励んだり、養生に努めたりする。しかし、中国古代医学では、人間は不可避の〈自然〉の盛衰と変化に規定されており、その〈自然〉は倫理とすることも選択肢とすることもできないものと考えているのである。
ポイント
用語解説
『漢書』(かんじょ):第2回用語解説参照。
『春秋繁露』(しゅんじゅうはんろ):中国・前漢の董仲舒(とうちゅうじょ)の撰。17巻。前半では公羊学に基づき『春秋』の筆法を解説し、後半では陰陽五行説に基づき天文と人事の関わりを解く。『呂氏春秋』『淮南子』とともに、中国古代医学と関わりの深い記述が多い。
『説文解字』(せつもんかいじ):第1回の用語解説参照。
『淮南子』(えなんじ):第4回の用語解説参照。
春夏秋冬の〈五蔵〉に対する〈関係〉が最もはっきり現れているのは、脈状である。そもそも、内に有って見えない〈気〉としての〈五蔵〉は、症状よりも、脈状に最もその姿を現す。
『素問』玉機真蔵論の冒頭に、それを象徴する一節がある。
「黄帝問うて曰く、春の脈は弦の如し。何如にしてか弦なる、と。岐伯こたえて曰く、春の脈は肝なり。東方の木なり。万物の始生する所以(ゆえん)なり。故に其の気の来たること耎弱(ぜんじゃく)、軽虚にして滑、端直にして以て長、故に弦と曰う。此に反する者は病む、と。」
これは「万物を始生させる」春の気(それは〈五行〉の木気、方位としての東方でもある)の到来が、肝の蔵の気を盛んにさせ、それが弦脈という脈状として現れることを述べた文章である。
この発想の根底には、『霊枢』順気一日分為四時篇に「春は生じ、夏は長じ、秋は収め、冬は蔵す。是れ気の常なり。人もまたこれに応ず」とあるように、春夏秋冬の〈気〉の在り方(「成」「長」「収」「蔵」)に対応して、人の体内の〈気〉も盛衰を繰り返すという考え方がある。
この春夏秋冬の〈気〉に動かされるものこそ、〈五蔵〉の〈気〉であり、〈五蔵〉の〈気〉が盛んになる(それを「旺気」と称す)と、それが脈状に反映する。したがって、春夏秋冬の脈状とは、春夏秋冬に喚起された五蔵の平常の脈状でもある。後代、この脈状診は、たとえば滑寿の『診家枢要』では「五蔵平脈」「四時平脈」と命名され、現在では「四時五臓脈」(樊佳如[等]『四時脈法』、湖南科学技術出版社、2021年)などと呼ばれている。この脈法については、次回に詳しく述べることにする。
ポイント
(注)
この表については、若干の説明が必要である。一つは中国古代においては、五蔵への〈五行〉配当に別説があったということ、もう一つは土の行の問題である。
漢代、五蔵への〈五行〉配当には、古文説と今文説の二説があった。医書においては当時から今文説が用いられ現在に至っているため、医書を見ている限りは矛盾を感じないが、『呂氏春秋』や『淮南子』に附された後漢の高誘の注のように、古文説を伝えるものもある。両説を以下の表に示す。
土の行の問題とは、春夏秋冬の四時に五行を取り入れようとしたことから生じた。土をどの季節に入れるかについては、旧暦の六月(季夏)をあてる場合と、春夏秋冬それぞれの末の十八日にあてるとの二つの説がある。
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