美容鍼灸の効果と効果機序に迫る
美容鍼灸は、リフトアップをはじめ、シワ・たるみ・くすみ・シミ・むくみ・乾燥肌など、さまざまな肌のお悩みに対して効果があるといわれています。これらの効果は、科学的にどこまで証明されているのでしょうか。また、効果を及ぼす仕組みは解明されているのでしょうか。
今年6月に開催された第71回全日本鍼灸学会学術大会東京大会では、「美容鍼灸Academic Conference」との共催によるシンポジウム「ここまで分かった美容鍼灸の効果と効果機序」が開催され、3名のシンポジストによる発表とディスカッションが行われました。
顔への鍼が、局所や全身、脳の機能に及ぼす影響
1人目の登壇者は、東京有明医療大学 保健医療学部 鍼灸学科の山崎さつき先生。「顔面の組織(血流)に及ぼす影響」と題し、文献調査の結果と自身の研究内容について発表しました。
リフトアップの効果機序としては、セロトニンによる作用を紹介。鍼刺激によってラットの血中セロトニン量が増加したという研究結果を踏まえ、セロトニンが抗重力筋に作用することから、姿勢がよくなる、目がぱっちりと開くなどの効果が生まれ、リフトアップにつながると説明しました。
また、山崎先生と安野富美子先生との共同研究の結果として、耳介部や顔面部への鍼刺激で顔面血流が増加したというデータを紹介。血行不良によって起こるくすみ・クマ・シミ・むくみ・肌荒れ・皮膚の弾力低下といった症状を、血流増加で改善できる可能性を示しました。
なお、顔面部血流増加のメカニズムについては、軸索反射や体性-自律神経反射によるものという説明がありました。
続いて登壇した株式会社三砂堂漢方・三砂堂漢方鍼灸院の三砂雅則先生は、「顔面の形態(たるみ)に及ぼす影響」と題して発表しました。
国内の美容鍼灸に関する論文の動向は、主観的評価から客観的評価へと変化しており、さらに客観的評価は、香粧品分野的測定から物理的測定法へと変わりつつあると説明。物理的測定法の例として、3次元画像解析やMRIを用いた評価法による研究事例を紹介しました。また、2018年以降、美容鍼灸の論文は増えているものの、エビデンスを得るまでには至っておらず、今後の課題はエビデンスの蓄積と治効メカニズムの解明だと語りました。
さらに、三砂先生自身の研究事例として、姿位変換前後スタンプ面積比によるたるみの測定方法を紹介。患者の頬にスタンプを押し、仰臥位と座位でスタンプ面積を比較するというこの方法は、簡便かつ安価であるため、開業鍼灸師が取り入れやすいのではないかと説明しました。
最後に登壇したのは、明治国際医療大学鍼灸学部の山﨑翼先生。「顔面の刺鍼が脳の機能と全身の機能に及ぼす影響」と題して発表しました。
山﨑先生いわく、顔面の刺鍼が全身の機能に及ぼす効果は非常に多様であり、高次脳機能が関与している可能性が高いとのこと。ただし、効果機序に詳細に迫った研究はまだ少なく、特に耳鍼における愁訴の多様さからは、受療者側の認知特性や心理社会的状況などが絡み合って効果を生じさせている可能性も考えられるため、効果機序の解明を一層困難にさせているのではないかと語りました。
また、効果には国民性や習慣も関与しているとすれば、国外の論文の知見を引用するにも限界があり、国内におけるエビデンスの蓄積が重要だと訴えました。
エビデンスを蓄積し、美容鍼灸のさらなる発展へ
発表の後には、シンポジストと司会の先生方も交えて、ディスカッションと質疑応答の時間が設けられ、効果機序、評価法、刺激方法という3つのテーマについて議論が行われました。参加者からは、「耳介への刺激は接触鍼でも効果があるのか」「鍼の太さと効果との関連性は検討しているか」「刺鍼の深度はどの程度が適切か」といった具体的な質問が寄せられ、先生方がそれぞれの見解を述べました。
美容鍼灸の効果と効果機序に関する研究の現状を共有するとともに、今後の臨床や研究にもつながっていくような有意義なシンポジウムでした。美容鍼灸に携わる鍼灸師だけでなく、施術を受けている人や今後受けてみたいと関心を持っている人にとっても、エビデンスにまつわる最新情報にふれる貴重な機会になったのではないでしょうか。