スポーツ障害に鍼灸は効くの?

全日本鍼灸学会学術大会福岡大会におけるエビデンスレポート

 全日本鍼灸学会学術大会は全国の鍼灸師が集い、講演やセミナー、シンポジウムを聴講して学術を深め、日頃の研究成果の発表を通して意見交流を図る大会です。第69回は2020年6月に京都で開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により残念ながら一般演題の誌上発表以外は中止となりました。1年が経ち、コロナ禍はまだ続いていますが、2021年6月4日から6日の3日間、第70回全日本鍼灸学会学術大会が福岡にて実施されました。

 今回は大会初のオンライン開催となりました。大会テーマは「健康・医療のブレイクスルーと鍼灸~からだとこころをとらえる五感の医術~」。特別講演2題、教育講演2題、シンポジウム7題をはじめ、実技供覧、一般発表、学生発表など多彩なプログラムが用意されました。コロナ禍における治療院の感染対策や、コロナ禍で行う鍼灸マッサージによる支援活動の意義といった、すぐに役立つ情報も含まれていました。

 大会終了後も6月22日までアーカイブで配信が続けられ、参加者は興味のある発表を好きな時間に好きなだけ聴講することができました。会員同士が直接会って学術交流を図ることはかないませんでしたが、参加者それぞれがプログラムの内容そのものを存分に味わうことのできた、有意義な大会となりました。

18文献のうち14文献が「鍼灸」の有効性を報告

 コロナ禍という世界の有事下において、世界最大のスポーツイベントであるオリンピックパラリンピックが、東京で開催されています。全日本鍼灸学会学術大会福岡大会のなかでも、スポーツ障害に対する鍼灸の効果の有無を調査した報告がありました。

 報告したのは全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会です。同委員会は、スポーツ分野での鍼灸の効果や有用性の研究を進めています。また、スポーツ現場における鍼灸の臨床症例を集めています。2015年に報告したエビデンスレポートは、厚生労働省の「統合医療情報発信サイト」で誰でも見ることができます。

【関連URL】
厚生労働省eJIM「統合医療」情報発信サイト|構造化抄録|スポーツ鍼灸マッサージ
https://www.ejim.ncgg.go.jp/doc/doc_e05.html

 
 今回の調査ではまず、スポーツ分野における鍼灸関連論文を検索し、次いで対象外論文のスクリーニングを行い、構造化抄録論文の選定・作成しました。

 データベースは医中Web版、MEDLINEに加え、スポーツ学と運動学分野のデータベースとして有名なSPORTDiscusを使用したとのことです。

 研究論文の選択基準は、鍼灸マッサージに関する臨床試験であること。対象はスポーツ選手または症状がスポーツや運動に起因していること。研究デザインやRCT、準RCT、比較試験、メタアナリシス、言語は英語または日本語です。
 医中誌Web版とMEDLINEは2015年10月1日から2020年9月9日、SPORTDiscusは期限の設定はありませんでした。
 検索条件に適合した論文は1万2383編で、最終的に42編が選定されました。

 そのうち「鍼」の論文は17編、「鍼灸」は1編でした。
 「鍼灸」の有効性は18文献のうち14文献で報告され、鍼に関する論文では7編が「効果あり」、「一部効果あり」が5編、「効果なし」は4編でした。ランダム化比較試験(RCT)は42編中22編とのことです。

 報告では、ダブルブラインドで行った鍼のRCTが取り上げられました。「円皮鍼を用いた鍼刺激が筋疲労による瞬発的筋力発揮能力低下に及ぼす影響」という論文で、日本臨床スポーツ医学会誌(2015年)に掲載されたものです。健康成人男性24名を対象に行われた研究です。
 円皮鍼群12名には大腿前面の3カ所のツボに円皮鍼を貼付、プラセボ鍼群11名には同じツボに鍼先を除去した円皮鍼を貼付しました。運動負荷をかけ、その後の測定の結果、円皮鍼群がプラセボ群に比べて運動負荷における最大筋力の低下を抑制した、とのことです。

車いすアスリートへの鍼治療研究

 選定された論文のなかには、脊髄損傷を持つ被験者の筋性の肩痛に対する鍼治療の効果を検討する海外論文もありました。SPORTDiscusで検出された海外論文です。
 スポーツ鍼灸委員会委員の分析によると、この論文ではスポーツなどで脊髄損傷となった人の筋性の肩痛に対する鍼とsham鍼の検討をしています。研究デザインはダブルブラインドによるRCTで、対象者は慢性の筋性肩痛を持つ車いす使用の脊髄損傷患者17名(鍼群8群、sham鍼群9名)です。

 鍼治療群では、事前にリスト化された肩周囲、上肢への経穴に刺鍼し、途中1回雀啄し、20分間置鍼。sham鍼群は経穴から離れた部位に切皮のみ、皮下へ20分間置鍼。いずれの群も筋または皮下に刺入しています。
 主なアウトカムは、車椅子使用者のために作られたADL評価のための肩痛Indexインデックスと、NRSを用いて肩の痛みの強さを評価しています。

 結果は、肩痛Indexは鍼群、sham鍼群ともに有意に減少しましたが2群間に有意差はなかった、とのことです。肩痛の強さも鍼群、sham鍼群ともに減少していますが、2群間に有意差はなかったようです。
 今後、対象者を増やした研究が待たれます。

 今回発表を行った全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会には東京オリンピック・パラリンピック2020の選手村で選手などを診療する医療サービス施設「ポリクリニック」にボランティアとして参加しているメンバーもいます。

 ポリクリニック内には理学療法サービスとして、リハビリテーションとともに日本の鍼灸師、マッサージ師による鍼療法とマッサージが提供されています。その様子はいずれ、全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会から報告があるでしょう。

【関連URL】
東京パラリンピック2020スケジュール
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/paralympics/schedule/

第70回公益社団法人全日本鍼灸学会学術大会福岡大会
https://www.taikai.jsam.jp/

全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会
http://www.sports.jsam.jp/wp/

 
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