世界の研究者が関心を寄せる鍼鎮痛のメカニズム

 今、海外では、鍼灸に関する多くの論文が発表されている。その勢いはとどまるところを知らない。PubMedで「acupucture(鍼治療)」をキーワードに英語の出版物を検索すると、その数は2019年12月時点で10,000を超えた1)。英語の論文を読まないと、鍼灸の最新知見は分からない時代となっているのだ。

論文を「計量書誌学」で分析

 2020年2月、韓国・台湾の合同チームが、新たな手法を用いてその状況を解析した論文を発表した2)。

 Leeらによる「Bibliometric Analysis of Research Assessing the Use of Acupuncture for Pain Treatment Over the Past 20 Years(過去20年間における鎮痛に対して鍼灸治療を評価した研究の計量書誌学分析)」と題されたこの論文では、近年の痛みに対する鍼研究のトレンドがよく分かる。

 計量書誌学とは、数学および統計ツールを使用して、特定の研究領域内の論文の相互関係とその影響力を測定する分析方法である。この方法を用いると、大量に出版されている学術論文のマクロ的な概要を抽出し、影響力のある論文、著者、雑誌、組織、国々などを効率的に特定することができる。そうすることによって、政策立案や臨床ガイドライン作成時などにおいて、効率的にデータを提供することが可能となる。

 世界では、慢性痛に対する大規模な臨床試験も行われ、その効果が評価されている。また、多くの研究者たちが、鍼鎮痛のメカニズムを研究している。研究の手法はさまざまなものがあり、脳画像を用いた解析もあれば、動物実験なども含まれる。そこでLeeらは、計量書誌学を用いて論文の引用、著者、所属組織の観点から、鍼鎮痛研究に関する定量的な解析を行った。

4,595本の論文を解析

 Leeらの調査では、2019年7月28日、台湾の中国医薬大学図書館のWebサイトを介して、世界最大級のオンライン学術データベースであるWeb of Scienceが用いられた。

 2000年1月1日から2019年7月28日に出版された論文のうち、「acupuncture(鍼治療)もしくはelectroacupuncture(鍼通電療法)」かつ「pain(痛み)」をキーワードに検索すると、合計5,230本の論文が特定された。オリジナルの論文ではなかったもの(484本)、英語で書かれていなかったもの(151本)を除外し、最終的に合計4,595本の論文が解析に回された。

 その解析の結果が次のとおりである。

鍼灸専門誌以外に掲載される

 まず、過去20年間の鍼鎮痛研究における世界的な傾向だが、年を追うごとに着実にその数は増加し、54カ国々から論文が投稿されていた。

 一番多く論文を発表しているのはアメリカ(30.7%)、続いて中国(24.2%)、韓国(10.4%)であり、日本はトップ10にも入っていない(11位、2.8%)(表1)。

表1 鍼灸論文の発表が多い国トップ10(54カ国中)

順位 国 名 %
1 アメリカ 30.7
2 中国 24.2
3 韓国 10.4
4 イギリス 9.6
5 ドイツ 6.7
6 オーストラリア 5.2
7 台湾 4.7
8 カナダ 4.4
9 ブラジル 3.7
10 スウェーデン 3.0

 掲載された雑誌の種類は900誌に及び、Evidence-based Complementary and Alternative Medicine誌(7.8%)、the Journal of Alternative and Complementary Medicine誌(5.2%)、Acupuncture in Medicine誌(4.9%)の順で論文の掲載本数が多い。上位には統合補完医学(鍼灸学を含む)の雑誌が名を連ねた。

 論文が掲載された雑誌の研究分野を調べると、統合補完医学(33.3%)、神経科学・神経内科学(19.6%)、一般内科(12.8%)、麻酔科(7.3%)の順となった。つまり、鍼鎮痛に関する論文の3分の1はいわゆる鍼灸系の雑誌に掲載されるが、残りの3分の2は違うということになる(表2)。

表2 鍼灸論文を掲載する雑誌の分野トップ10

順位 国 名
1 統合補完医学 33.3
2 神経科学・神経内科学 19.6
3 一般内科学 12.8
4 麻酔科学 7.3
5 リハビリテーション学 5.4
6 実験医学 4.9
7 整形外科学 3.5
8 健康科学 3.2
9 産婦人科学 2.9
10 リウマチ学 2.8

増えてきたキーワード

 次に、Leeらは鍼鎮痛論文のキーワードについて調査した。過去20年に出された論文で用いられていたキーワードは4,955個あった。そのうち80個のキーワードが、論文の題名や要約で80回以上使用されていた。

 これら80個のキーワードは、全論文で10,941回使用されており、Leeらはこれを解析し分類したのである。
 すると、臨床研究、疼痛管理研究、メカニズム研究の3つのクラスターが見えてきた。

 臨床研究では、39個のキーワードが頻回に使用されており、多いものから、鍼治療(2,394回)、腰痛(550回)、管理(545回)、ランダム化比較試験(408回)、治療(310回)、二重盲検(280回)、有効性(280回)であった。

 疼痛管理研究では、23のキーワードが頻回に使用され、代替医療(283回)、有病率(255回)、補完的(239回)、治験(192回)、ケア(181回)、女性(159回)の順で多かった。

 メカニズム研究では、18個のキーワードが多く使用され、痛み(1,337回)、電気鍼(759回)、刺激(408回)、鎮痛(367回)、メカニズム(237回)、神経因性疼痛(233回)、鍼鎮痛(173回)などが含まれていた(表3)。

 また、これらのキーワードがいつ頃から使われてきたのかを調べることによって、最近のトレンドが分かる。Leeらの研究によると、2000年代半ばからはメカニズム研究のキーワードが多くなってきている。つまり、効果の有無だけでなく、鍼治療が「なぜ効くのか」というテーマに、世界中が取り組んできている。

表3 ここ20年の鍼灸論文で頻繁に使用されているキーワード

大項目 小項目 使用回数
臨床研究 鍼治療 2,394
腰痛 550
管理 545
ランダム化比較試験 408
治療 310
二重盲検 280
有効性 280
疼痛管理研究 代替医療 283
有病率 255
補完的 239
治験 192
ケア 181
女性 159
メカニズム研究 痛み 1,337
電気鍼 759
刺激 408
鎮痛 367
メカニズム 237
神経因性疼痛 233
鍼鎮痛 173

中国と韓国の著者が躍進

 次にLeeらは、論文の著者の解析を行い、その分類を試みた。表4に鍼鎮痛研究論文数トップ10の著者と所属を示す。計16,577人の著者のうち、59人が15本以上の論文に関わっており、7つのクラスターに分類できるという。そのうち、4つの大きなクラスターが存在することが分かった。

 1つ目の集団は、Claudia Witt(2,138引用)、Klaus Linde(1,971引用)、Hugh Macpherson(1,706引用)、Benno Brinkhaus(1,540引用)など、イギリスおよびドイツの12人の著者から構成される。

 2つ目は、Jie Tian(636引用)、Wei Qin(610引用)、Lijun Bai(515引用)など11人の中国の著者によるもの。

 3つ目は、Myeong soo Lee(1,084引用)、Edzard Ernst(726引用)、Sun-Mi Choi(375引用)ら、韓国東洋医学研究所と関わる韓国のチームによるもの。

 4つ目は、Ted Kaptchuk(1,475引用)、Vitaly Napadow(1,342引用)、Jian Kong(1,247引用)、Randy Gollub(858引用)のハーバード医科大学のチームによるものである。

 ここに名前が挙がった著者たちが、間違いなく鍼鎮痛研究におけるトップランナーたちである。中国、韓国のチームによる研究の飛躍的な伸びがうかがえるが、引用回数からいうとアメリカ、ヨーロッパのチームにまだ分があるようだ。一概にはいえないが、これには研究の質の差が出ているのかもしれない。

表4 過去20年間に鍼鎮痛を研究している論文数トップ10の著者

順位 著者 所属組織 論文数
1 Lee H 慶熙大学校(韓国) 69
2 Lao LX メリーランド大学(アメリカ) 65
2 Lee MS 韓国東洋医学研究所(韓国) 65
4 Lee JH ソウル大学校(韓国) 61
5 Macpherson H ヨーク大学(イギリス) 59
6 Park HJ 慶熙大学校(韓国) 57
7 Ernst E エクセター大学(イギリス) 55
8 Kaptchuk TJ ハーバード大学(アメリカ) 54
9 Yang J 成都大学(中国) 45
10 Witt CM チューリッヒ大学(スイス) 42

一流大学が鍼鎮痛に関心

 最後に、所属組織の解析である。最も論文を発表していた組織は韓国の慶熙大学校(5.6%)であり、それにハーバード大学(4.2%)が続く。53の組織が30本以上の論文を発表しており、解析すると7つの集団が見えてくる。そのうち大きなものは4つある。

 1つ目は、ハーバード大学(7,147引用)、マサチューセッツ総合病院(4,728引用)、ワシントン大学(2,311引用)を含む14の組織からなる集団。

 2つ目は、北京大学(1,642引用)、フロリダ大学(1,534引用)、首都医科大学(1,015引用)を含む11の組織からなる集団。

 3つ目は、慶熙大学校(4,333引用)、エクセター大学(3,329引用)、プリマス大学(3,144引用)を含む8つの組織からなる集団。

 4つ目は、ミュンヘン工科大学(3,053引用)、ヨーク大学(2,032引用)、スローン・ケタリング記念がんセンター(1,845引用)、サウサンプトン大学(1,690引用)の4つの組織からなる集団である。

 どれも一流大学の名前が並ぶ。この中で、マサチューセッツ総合病院はハーバード大学の医療機関であり、このように関連する組織であっても別々と判断して評価されたことは、問題かもしれないことをLeeらは認めている。

 この20年間は、初期段階では、アメリカやドイツなどの西欧諸国が、鍼鎮痛研究を主導し、多くの臨床試験を実施してきた。しかし、現在では、中国、韓国、台湾といった東アジアの国々が多くの臨床試験やメカニズム研究を実施していることが見えてくる。
 残念ながら、その中に日本の名前はない。この現状を理解し、他国から学ぶことの重要性を、Leeらの論文を読んで再認識する結果となった。

世界視野で知識のアップデートを

 特に、ここ10年のメカニズム研究では、脳MRIやオミックス解析など、最新の科学技術を用いた鍼の鎮痛機序の解明がなされている。それを理解することで、自らの鍼治療の意味を知ることができ、また、患者へ正確な情報を伝えることができるようになる。

 臨床家にとって鍼灸の技術を磨くこと、人間性を高めることはもちろん重要であるが、知識のアップデートも必要なことの1つである。

【参考文献】
1)建部陽嗣. 日本鍼灸界への最終アラート 世界から取り残されないために. 医道の日本 2020; (7): 216-8.
2)Lee IS, Lee H et al. Bibliometric Analysis of Research Assessing the Use of Acupuncture for Pain Treatment Over the Past 20 Years. J Pain Res. 2020; 13: 367-6.


 


スポンサーリンク






 

コメントを残す