リオ五輪 障害馬術日本代表 Team STAR HORSES 福島大輔選手 インタビュー

リオデジャネイロ オリンピック 障害馬術日本代表 Team STAR HORSES 福島大輔選手 インタビュー

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馬に乗れない不安を解消してくれたのは鍼(はり)治療

「腰を痛めて馬に乗れなかった時期は、また競技生活に戻れるのかとても不安でした」。そう話すのは、昨年秋に開催された『全日本障害飛越選手権』を愛馬グラムアーと共に優勝、選手権2連覇を果たした福島大輔(ふくしまだいすけ)選手。「鍼(はり)治療なくして今の自分はありません」と語る福島選手に、「鍼」との出会いや日頃のボディケアについてうかがいました。

 お父様が自宅近くで乗馬クラブを経営していたため、自然と乗馬の世界へ導かれた福島選手。一般家庭で犬や猫を飼うように、いつもそばに「馬」がいたそうです。しかし、乗馬を始めたのは意外と遅く10歳の時。その理由も「友達と遊びたいから」。乗馬クラブへ行くと同世代の子供達が沢山いて、毎日そこで遊ぶのが楽しかったそうです。「でも、小学校を卒業する頃からみんな競技会を目指すようになったので、僕も負けずに本格的な練習を始めました」。

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 お父様は常に福島選手の成長に合わせた馬に乗せてくれたそうです。「馬術選手は皆さん言いますが、僕にとっても馬が一番の先生です」。「自動車レースに例えるなら、最初はアクセルとブレーキ、そしてハンドル操作だけの簡単なカートで練習して、徐々にエンジンの大きな車、複雑な技術を求められる車に乗り替えますよね。馬術も同じで、その人の成長・技術レベルに合わせて能力の高い馬に替えていくことで、乗り手である選手も育てられるんです。最初から難しい馬に乗せてしまうと上手く乗りこなせないだけでなく、『走られてしまうかも』『落ちてしまうかも』という恐怖心が芽生えてしまいます。馬に乗る楽しさを感じることが重要で、その中で少しずつ技術が磨かれていきます」。

 「小学6年生の時にオーストラリアから来た馬が、僕に“勝負の仕方”を教えてくれました。名前はイルミネーション。身体がゴールド、たてがみと尾がシルバー、とても美しい馬でした。競技会では『落ちないようにさえ乗ってくれれば俺が優勝させてやる!』と言われているようでした」。とても賢く優秀な馬だったそうです。「高校生の時に『全日本障害飛越選手権』を最年少記録で優勝できたのも彼のお蔭です。先日33歳で亡くなりましたが、危篤状態にありながら遠征先からの僕の帰りを待っていてくれました。最後まで僕に人と馬の関わりを教えてくれた恩師です」。そう語る視線の先にはイルミネーションと闘った選手権の写真が大切に飾られていました。

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 馬術強豪国で活動機会の多い福島選手は、日本と海外、特にヨーロッパ各国は環境が全く違うと言います。「ヨーロッパの馬術は長い歴史の中で産業として発展して来たので、市場規模が桁違いに大きいです。だから、色々なタイプの馬に乗ることができます。馬はそれぞれ能力も個性も違うので、国内で活動するのとは比較にならないくらい経験値が上がります。良い馬を買うことも、良い競技馬を育てることもできる。全てが好循環しているんです。自宅で馬を飼って、週末になると自家用車で小さな馬運車を引いて競技会場へ行く、日本では考えられないですね(笑)」。

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 幼い頃から馬のいる環境で育ち、常に乗馬と向き合って来た福島選手にとって、馬に乗れないことがどれほどもどかしく辛かったことでしょうか。医師の診断は坐骨神経痛、筋肉が引き千切られるような激しい痛みで、乗馬どころか起き上がること歩くこともできず、救急車で病院に運ばれたこともあるそうです。「ブロック注射で痛みを抑えても根本的な解決には至りませんでした。何かいい治療法はないかと探し求めた末に辿り着いたのが、トリガーポイント鍼療法(※1)です」。

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 「早速、トリガーポイント鍼療法をする千葉県流山市の『のざき鍼灸治療院』を訪ねました。通い始めてもう5年になります。馬術選手は僕が初めてだったそうですが、問診と触診とで何が痛みの原因で、何をすれば痛みが治まるか診察してくれました。そして初めての治療で信じられないほど痛みが引いたんです・・・感動しました」。

 今では野崎先生に全幅の信頼を寄せている福島選手ですが、初めての鍼治療に不安はなかったかと聞くと「最初は鍼って痛そうで怖かったですよ。でも、実際に受けてみると刺す時にチクッとするくらいで、痛みを感じるところを避けてくれるから安心しています。むしろ今は、患部に鍼が届いた時の“ずぅーん”という鈍い痛みが気持ちよくて、“効いてる!効いてる!”って嬉しくなります」。乗馬では身体をどう使うのか、どこに負荷がかかるのか、野崎先生はそれを理解するために自ら乗馬体験をしてくれたそうです。「野崎先生に出会っていなければ、リオ五輪に出場することもなかったと思います」。

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 日本を代表するトップアスリート、普段はどんなトレーニングをしているのでしょうか。「走り込んだり、重いものを持ち上げたり、他の競技選手が行うようなトレーニングは特にしていません。馬を乗りこなすための体力は馬に乗ることで鍛えられるし、馬を操る感覚はとにかく馬に乗ることで磨かれます。あとは日頃のボディメンテナンスですね」。もう一方の興味、馬に付いてお聞きすると、「一般的に、乗りやすいのはセン馬(去勢された雄馬)と言われます。牡馬(雄馬)は、とてもパワフルですが自己主張が強いので扱いが難しく、牝馬(雌馬)は、人間の女性と同じで無理やり言うことを聞かせようとすると逆効果ですね(笑)。ホルモンバランスに左右されて、神経質になったかと思えばボーッと鈍感になることがあります。でも、繊細がゆえに障害に脚を当てないよう綺麗に飛越してくれる利点もあります」。色々なタイプの馬を上手に乗りこなすには、自分自身をベストコンディションに保つこと、馬を知り馬を操る感覚を磨くことのようです。

 「馬に乗る人は腰を痛めやすいです。特に障害馬術は、着地した時に衝撃を腰で受け止めるし、馬が暴れたりバランスを崩したりした時も腰に負担がかかります。そもそも乗馬は、普段あまり使わない脚の筋肉を使います。だから、腰に違和感が出た時は腰だけでなく脚の筋肉をマッサージやストレッチでほぐすよう心掛けています」。誰にでも出来るオススメのボディケアをうかがうと、筋肉が凝り固まらないように筋膜リリース(※2)用のローラーで腕や脚をコロコロすることだそうです。これなら誰でも手軽に出来そうですね。

最後に、読者の方へメッセージをいただきました。

 乗馬をしている方に限らず、僕と同じような悩みを持たれている方は多いと思います。原因や症状にもよると思いますが、色々な治療法がある中、鍼治療を試してみるのもいいと思います。
競技をされている方は、馬のコンディションを整えるのと同じようにご自身のボディケアも忘れず行ってください。鍼治療は痛めたところを治すだけでなく健康状態をチェックする機会にもなるので、定期的に受診するのがいいですね。

インタビューを終えて

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 取材に訪れた佐倉ライディングクラブは木々が豊かに生い茂り、梅が淡いピンクの花を開き出迎えてくれました。福島選手はインタビュー後、厩舎で休む愛馬グラムアーとの撮影にも快く応じてくださいました。「今度は仕事でなくゆっくり馬に乗りに来て下さいね!」と笑顔でお見送りいただいた福島選手の言葉には、アスリートが持つ競技への強い思いとは別に、「馬」そして「乗馬」への深い愛情を感じました。

次の大きな目標は、『2020年東京オリンピック』出場!今回の取材を通して福島大輔選手への期待が更に高まりました。

※1「トリガーポイント鍼療法」:痛みの原因として考えられる筋肉などを推測して、「筋と骨」「腱と骨」「筋と腱」など「異なる構造物の接合部分」や「筋縁の最深部」に鍼を打つ方法。

※2「筋膜リリース」:筋膜(筋肉を包む薄い細胞膜)を柔らかく解きほぐすこと。筋膜の委縮や癒着が凝りや痛みの原因となることがある。

 
◆福島大輔(ふくしまだいすけ)

10歳の時、父が経営する佐倉ライディングクラブで乗馬を始める。高校在学中には『国民体育大会』を3勝。高校2年生(17歳)の時、『全日本障害飛越選手権』を最年少記録で優勝。高校3年生の時、『全日本ジュニア障害馬術大会ヤングライダー選手権』を優勝。その後、フランスへ馬術短期留学。明治大学馬術部時代は、『世界学生馬術選手権大会』で個人総合優勝を果たすなど、国内外の大会で数々のタイトルを獲得。大学卒業後、JRA(日本中央競馬会)に勤務、在職中ベルギーへ渡り技術を磨き、『世界馬術選手権』では個人セミファイナルに進出。その後、佐倉ライディングクラブへ戻り、リオ五輪には「障害馬術競技」の日本代表選手として出場。現在、Team STAR HORSES代表、自らの技術研鑽、競技馬の育成、後任の指導に当たる。
▼佐倉ライディングクラブ
http://sakura-rc.jp/
▼エクイネット レッスン動画_福島大輔のジャンピングレッスン
http://equinet.co.jp/%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B9%E3%83%B3%E5%8B%95%E7%94%BB/

◆関連サイト

▼東京2020に向けて?馬術競技を見てみよう! (世田谷区)
https://www.youtube.com/watch?v=8j_MrWraqKc
▼馬術・福島大輔【みらいのつくりかた】(テレビ東京)
https://www.youtube.com/watch?v=FiGInW3HwO4

 
ダウンロードはこちら → fukushima_senshu2.pdf