立て続けに報告されたわが国での鍼灸事故4症例

建部陽嗣

 2020年11月から2021年3月にかけて、わが国から鍼灸の症例が英語で立て続けに4例報告された。この4症例はすべて、医師からの報告である。そして残念ながら、すべて事故症例である。そのうち2症例は、過去の鍼灸治療による障害、残りの2症例は鍼灸治療直後に生じた事故の報告である。症例①~③は、画像を無料で見ることができる。URLからぜひ見に行っていただきたい。

症例①89歳男性、けがで発覚した約50年前の埋没鍼

https://doi.org/10.1002/ams2.588

 大阪医科大学救急医学教室のOtaらによって「Discovery of decades-old acupuncture needle fragments during routine care for an arm injury(腕の怪我の日常的なケア中に数十年前の鍼治療の針の破片を発見)」と題して、埋没鍼症例が報告された[1]。

 89歳男性が家で転倒し、右肘からの出血により救急搬送された。緊急治療室に到着したときのバイタルサインは、ほぼ正常であった。右肘外側の擦過傷と右前腕橈骨側の裂傷が確認されたが、これらの創傷の周囲に異物はなかった。右腕のレントゲン写真を撮影してみると、右肘関節の周りに多数の放射線密度の高い異物が見つかった。これらの異物は当初、外傷による何か、異物による断片、もしくはX線フィルムの破片によるものと考えられた。しかし、患者に注意深く問診を行うと、約50年前に右腕の痛みとしびれに対して鍼治療を受けていたことが明らかとなった。

 レントゲン写真を見てみると、合谷や手三里の付近に、細い異物がいくつも映し出されていることがわかる。この症例では、鍼灸針は何年も無害であったので、処置はせず、そのままにされた。しかし、現在、このような埋没鍼療法を行う鍼灸師はいないと信じたい。

 2020年に刊行された「鍼灸安全対策ガイドライン2020年版」でも、埋没鍼療法は禁忌となっている[2]。そこには、体内に残存した鍼が移動し、神経・血管や臓器を損傷する可能性があること、MRI撮像や外科的処置に多大な影響を及ぼす可能性があることが記されている。ガイドラインはネットでも公開されているため、鍼灸師は必ず読んでいただきたい。

症例②腰痛治療のための埋没鍼で尿管結石に

https://doi.org/10.1016/j.ajur.2019.10.009

 2つ目の症例は、北海道社会事業協会帯広病院泌尿器科のMatsukiらによる「Ureteral calculi secondary to a gradually migrated acupuncture needle(徐々に移動する鍼治療針に続発する尿管結石)」である[3]。

 74歳の女性が尿管結石と腎盂結石の治療のために当科に紹介された。臨床症状や愁訴はなかったが、胃癌治療後の術後腹部CTスキャン画像で、左側の水腎症と、腎盂と尿管にそれぞれ直径6mmと15mmの2つの結石が映し出されていた。身体検査、血液検査、尿検査、すべてに異常がなく、尿路結石形成につながる可能性のある薬物の投与も認められなかった。

 CTおよびX線画像により、細長い異物にくっついている不自然な結石が特定され、他にも主に腰部に埋め込まれた鍼灸針が観察された。患者は、約10年前、腰痛の治療のために鍼治療を受けていた。そのため、Matsukiらは過去の画像をあらためて見直してみることにした。すると、5年前に撮像された冠状CTスキャンでは、鍼灸針が左腎実質に移動したことが示され、鍼灸針の上部にかすかな腎結石が観察された。3年前に撮影されたCTスキャンでは、左腎盂に鍼治療針を伴う左腎結石が既に認められ、その他にも多くの埋め込まれた鍼治療針の断片が確認された。つまり、尿管結石は、徐々に腎実質に移動した鍼灸針に起因するものと考えられる。

 まず、硬性尿管鏡とレーザーを使用した経皮的腎結石摘出術を実施し、1つの結石と細い針の断片を抽出した。しかし、尿管結石が壁にぶつかり、粘膜が浮腫状であったため、細いガイドワイヤーを尿管に通すことができなかったため、手術は中止された。2週間後、尿管粘膜の浮腫が解消されたので、軟性尿管鏡を使用して尿管内の針と結石の残留断片を除去した。処置以来、患者は6カ月のフォローアップ期間中、結石の再発はみられなかった。

 論文に掲載された写真を見ると、2㎝程度の鍼灸針とその断片が見て取れる。今回、尿路に移動した鍼を内視鏡で摘出することはできたが、この患者の腰にはまだ長い鍼灸針が残っている。10年前、埋没鍼は既に禁止されていたはずである。誤って折れたとしても、2cmの長さの鍼を患者の体内に残し、そのままにしておくことは決して許されることではない。

症例③アスリートの殿筋で折れ体内で発見された鍼

https://doi.org/10.1186/s40792-020-01065-8

 3例目は、三重大学医学部消化管・小児外科学のYamamotoらによる「Laparoscopic removal of an aberrant acupuncture needle in the gluteus that reached the pelvic cavity(骨盤腔に達した殿筋に刺さっている鍼灸針の腹腔鏡下除去:症例報告)」である[4]。
 患者は、26歳の男性アスリートで、殿部に残った鍼治療針の検査のため当院に紹介された。入院の6日前、鍼治療を受けたのだが、鍼灸針の端が折れて殿筋に残ってしまった。鍼灸師はすぐに針を抜こうとしたができなかった。殿部に鍼灸針が残っているにもかかわらず、症状がなかったため、患者はトレーニングを中止しなかった。アスリートである患者が、トレーニングの中断を嫌がったのだ。しかし、その後、左下肢の屈曲時に痛みを感じるようになり、整形外科を通じて当科に入院することとなった。

 患者の身長は174 cm、体重は68 kg、鍼灸針の刺入部位は特定できなかった。体内に残った鍼灸針に触れたり感じたりするのは困難な状態だった。腹部X線検査では、長さ40 mmの細い金属異物を認めた。腹部のCT検査でも、殿筋に線状の超高密度の異物が確認された。しかし、鍼灸針の針先が後腹膜を破り骨盤腔に到達しているかどうかまでは不明だった。

 迅速な異物除去が必要ではあったが、上記CT所見に加えて、急性腹症を起こしていないことから、緊急手術を行う必要はないと判断された。そして、Yamamotoらは、異物を安全かつ最小限の侵襲で除去する方法を議論した。最初は、整形外科的に体表面からのアプローチによる異物の除去を考えた。しかし、鍼灸針の断端が殿筋の真ん中にあること、殿筋の切開により患者の運動能力が低下する可能性を考慮し、経腹的アプローチを使用することが適切だと判断した。

 経腹的アプローチは直腸癌手術における外側リンパ節郭清に用いられる方法で、これによりCTで確認した鍼灸針を認識できると判断した。腐食した針は壊れやすく、除去中に断片化する可能性、針の断片が膿瘍を形成する可能性を考慮し、残存した鍼灸針をX線透視ガイド下で腹腔鏡を用いて除去することが決定された。

 実際の手術では、X線透視検査で異常な鍼灸針が殿筋にあることが確認されたが、鍼灸針周囲の腹膜が炎症により肉芽腫性変化を示していたため、腹腔鏡鉗子では鍼灸針を感じることができなかった。したがって、後腹膜をさらに解剖して鍼灸針を探すことになった。外側リンパ節郭清で使用されるアプローチで解剖学的構造を特定すると、肛門挙筋に入り内閉鎖筋に至る鍼灸針が特定された。無事に取り除くことに成功し、折れた鍼灸針の長さは40mmであった。鍼灸治療から手術による鍼灸針の抜去まで8日が経過していた。患者に合併症はなく回復し、術後2日目には退院し、すぐに競技スポーツに戻った。

 この症例では、折れた鍼灸針の鍼柄側の写真も掲載されていることから、施術した鍼灸師が協力していることがうかがえる。2.5寸(75mm)の長さの鍼灸針が施術に使われたようである。折鍼が起きてしまった場合、鍼灸師は折れた鍼の柄側と、未使用の鍼の情報を医師に提供することは重要である。使用した鍼灸針の太さまでは写真からは確認できないが、アスリートのような筋肉が発達した患者に対しては、いつも以上に太い鍼灸針を選択することが必要だろう。

症例④肩こりの女性医師が鍼治療後に両側性気胸を発症

http://dx.doi.org/10.1136/bcr-2020-241510

 最後は、慶應義塾大学医学部呼吸器内科のNishieらによる「Bilateral pneumothorax after acupuncture treatment.(鍼治療後の両側性気胸)」である。
 患者は、31歳の呼吸器内科女性医師である。彼女は、肩こりの治療のため鍼灸院を訪れ、首、肩、背中、腰、胸部に鍼治療を90分間受けた。鍼治療部位は、A:胸横筋、B:僧帽筋の中央部、C:肩甲骨上角;肩甲挙筋の起始、D:肩甲挙筋、E:僧帽筋の上部、F:棘下筋、小円筋、大円筋、G:外腹斜筋、腰方形筋、H:腸肋筋の外縁、I:腸肋筋の起始、J:大殿筋の起始、K:中殿筋、小臀筋、L:頭板状筋の起始、M:頭半棘筋、N:僧帽筋と頭半棘筋の起始、O:小胸筋の起始の15部位である。患者は、身長158.1 cm、体重42.3 kgで、呼吸器疾患の既往や喫煙歴はなかった。

 鍼治療30分後、胸と肩に倦怠感と不快感を覚えた。当初、彼女はこの感覚は鍼治療によるものだと考えていたため、様子をみることにした。しかし、背臥位になると、胸の両側から「パチパチ」という軋音が聞こえるようになった。この音は翌日も続き、くしゃみをすると胸が痛くなり、吸入時に不快感を覚えるようになった。彼女は気胸を疑って救急治療室に報告した。胸部レントゲン写真では、第3肋間腔までの右肺の虚脱と、左肺尖部のわずかな虚脱が明らかとなった。患者は、処置なしで11日後に回復した。

 施術を受けた鍼灸院では、対象の筋肉の解剖学的深さに対応するために、15~60mmまで異なる長さの鍼灸針が用意されていた。しかし、肩こりに対して使用された鍼灸針は、8番2寸(直径0.3mm、長さ60㎜)のものであった。施術部位において、特に上記Cの領域(肩甲骨上角部)は、解剖学的に胸膜に近い部位である。Nishieらが超音波検査により確認したところ、肩甲骨上角の肩甲挙筋付着部における患者の皮膚と胸膜との間の距離は22 mmであった。

 使用された鍼灸針の長さは60mmもあり、首や肩の領域に日常的に用いるには適していない可能性が高い。たとえ斜刺で刺入したとしても、刺入できる最大の深さは約30mmであり、長い鍼灸針を用いたことにより両側の胸膜を貫通した可能性が示唆された。
 今回、施術した鍼灸師は初心者ではなく、11年の経験を有していた。そのため、気胸を起こした原因は、施術した鍼灸師の「impudence(怠慢、厚かましさ)」であると論じている。同感である。施術に慣れてきた時こそ、注意が必要である。鍼灸師は、個々の患者の体格に合わせた鍼灸針(長さ・太さ)を選択する必要がある。

 患者は初めて鍼治療を受けたということもあり、鍼治療後に生じた違和感に対して、当初は鍼治療によるポジティブな反応だと勘違いした。呼吸器内科医であっても気胸を疑うことができなかった。そして、無処置で回復したことからも、鍼灸治療によって引き起こされる医原性気胸の発生頻度は、報告よりも高頻度で起きている可能性がある。この症例では、鍼灸治療に関して詳細な記載がなされているだけでなく、鍼灸師が注意する要点が記載されている。これは、論文の著者の1人として、慶応義塾大学病院漢方医学センターで鍼治療を担当する萱間洋平氏が名を連ねていることが関連しているのだろう。

慢心を慎み、鍼灸針を選択する

 いかがであっただろうか。埋没鍼療法は論外である。症例②は、故意かどうかはわからないが、体内に針を残して対処していない鍼灸師がわずか10年前にいたことに愕然とした。今一度強く禁忌であることを強調しておきたい。

 鍼灸針の単回使用はいうまでもないが、必要以上に細いもしくは長い鍼灸針を使用してはいないだろうか。長い鍼灸針を用いても技術があるから大丈夫と慢心するのではなく、必要な部位に必要な太さ・長さの鍼灸針を選ぶことも、プロとして必要な臨床能力である。

【参考文献】
1)Ota K, Yokoyama H et al. Discovery of decades-old acupuncture needle fragments during routine care for an arm injury. Acute Med Surg. 2020;7(1):e588.
2)坂本 歩 (監修), 全日本鍼灸学会学術研究部安全性委員会(編集). 鍼灸安全対策ガイドライン2020年版(日本語版). 医歯薬出版. 2020. https://safety.jsam.jp/pg157.html
3)Matsuki M, Wanifuchi A et al. Ureteral calculi secondary to a gradually migrated acupuncture needle. Asian J Urol. 2021 Jan;8(1):134-136.
4)Yamamoto A, Hiro J et al. Laparoscopic removal of an aberrant acupuncture needle in the gluteus that reached the pelvic cavity. Surg Case Rep. 2021 Feb 17;7(1):51.
5)Nishie M, Masaki K et al. Bilateral pneumothorax after acupuncture treatment. BMJ Case Rep. 2021 Mar 1;14(3):e241510.


 


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2021年5月27日 コメントは受け付けていません。 鍼灸論考