更年期症状の不眠に鍼治療が効果的 中国発信のRCT結果

建部陽嗣

コクランメタアナリシスでも実証されていた不眠への鍼

 女性の更年期とは、閉経の時期をはさんだ前後10年間のことを指す。この時期に卵巣の機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少する。結果としてホルモンのバランスが崩れ、月経周期の乱れやエストロゲンの欠乏により心身にさまざまな不調が表れることになる。更年期のさまざまな不調を「更年期症状」といい、仕事や家事など日常生活に支障をきたしてしまうほどの重いものを「更年期障害」と呼んでいる。

 更年期の症状は、いわゆるホットフラッシュといわれるほてりやのぼせなどの症状を含む自律神経(血管運動神経)系の症状が一般的であるが、月経異常や性交痛などの性器症状、肩こり、腰痛などの運動器系の症状、不安感、イライラ感、うつなどの精神神経症状など多岐にわたる。とくに、更年期の不眠症(Perimenopausal insomnia:PMI)は、女性の生活の質を著しく損ない、期間中の有病率は35〜50%と多い[1]。
 PMIは、入眠困難や早朝覚醒を特徴とし、閉経期の女性ではその症状はより重症で長期間に及ぶ。最も効果的な治療法は、ホルモン補充療法と認知行動療法とされている。しかし、他の基礎疾患を抱え薬物療法に消極的な患者も多く、また、わが国では不眠症に対する認知行動療法は一般的ではないため、安全で効果的かつ実行可能な治療が必要だといえる。

 鍼治療はどうだろうか。
 2012年に発表されたコクランメタアナリシスでは[2]、薬物治療の補助として鍼治療を使用した場合、不眠症に対して臨床的に有効であるという結果が出ている。これまでにもランダム化比較試験がいくつも行われており、鍼治療は原発性不眠症およびうつ病に関連した不眠症の治療に比較的効果的であることが示されている。

 そんななか、2020年12月、PMIに対する鍼治療効果を検討した論文が上海中医医院のLiらによって発表された。「Electroacupuncture versus Sham Acupuncture for Perimenopausal Insomnia: A Randomized Controlled Clinical Trial.(更年期女性の不眠症に対する鍼通電療法vs. sham鍼:ランダム化比較試験)」[3]と題されたこの論文では、更年期女性の不眠症に対して鍼治療の短期的および長期的な効果を調べるために、非侵襲的なsham鍼とその効果を比較したランダム化プラセボ対照試験が実施された。今回はこの論文を読み進めたいと思う。

Liらの臨床試験プロトコルは81人の患者を対象に実施

 Liらの臨床試験のプロトコルは、2019年5月に公開されている[4]。これにより、試験終了後の値を見てから、都合のよい解釈をすることを防ぐことができる。近年、中国や韓国は、ある程度の規模の鍼灸に関する臨床試験を行う際、プロトコルの詳細を論文にして公表することが多くなってきている。そうすることによって、鍼灸に関するエビデンスの信頼性を高めている。

 対象者は、2018年10月~2019年12月、診療所・病院に関するWeChatの広告、ポスターを通じて、上海市中医医院で募集された。WeChatとは、中国大手IT企業が開発したメッセージングアプリである。日本ではLINEが一般的だが、WeChatはアクティブユーザー数が世界第3位の規模で、中国では最もポピュラーなアプリの1つといえる。中国ではこのような方法で臨床試験参加者を募っており、とても先進的な動きをしていることにも驚く。

 包含基準は、①ICSD-3(睡眠障害の国際分類)基準を満たす、②45〜60歳、③少なくとも6カ月間の無月経、④ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)で合計点が6点以上、⑤腎陰虚または腎陽虚である。
 除外基準は、①ホルモン補充療法および/または抗うつ薬を使用中、②手術による無月経の誘発、③深刻な身体的疾患、④他の外的要因によって引き起こされる不眠、⑤PSQIで15点を超えるスコア、⑥エスタゾラムを除く催眠薬の使用、⑦ 過去6カ月間に更年期症状に対して鍼治療を受療、である。

 106人の女性患者が臨床試験の参加に申し込みがあったが、5人が説明後の参加拒否、17人が基準を満たしていないことから、計84人の参加者が2群(鍼治療群、sham鍼治療群:各42人)に振り分けられた。鍼治療群では2人、sham鍼治療群では1人が途中で脱落したため、鍼治療群40人、sham鍼治療群の41人の参加者が治療を完了した。欠測値は、脱落を起こした時点での値を、単純に代入値として利⽤するLOCF(Last Observation Carried Forward)法で値を代入した。

 鍼治療は、8週間にわたって18回×30分間実施された(週3回を4週間、その後週2回を2週間、週1回を2週間)。主要経穴は、百会(GV20)、神庭(GV24)、齦交(GV28)、気海(CV6)、関元(CV4)、両側の安眠(Ex-HN22)、三陰交(SP6)、神門(HT7)である。追加経穴は、腎陽虚に対しては命門(GV4)と腎兪(BL23)が、腎陰虚に対しては太渓(KI3)と復溜(KI7が)選ばれた。

 滅菌済みの使い捨て鍼(0.25×40mmおよび0.30×40mm)を10~30mmの深さまで刺入し、患者が得気(Deqi感覚)を報告するまで手動で操作した。GV20とGV28に対しては、連続波、周波数2.5 HZ、強度4.5 mAの鍼通電療法が行われた。その後、30分間置鍼した。

 sham鍼治療グループの参加者には、非侵襲的プラセボ装置であるStreitberger針が用いられた。Streitberger針は切皮するとマジックナイフのように鍼体が鍼柄の中に入り、外見的には刺入したように針が短くみえる世界で最も用いられているsham鍼である(図1 )。台座をくっつけることで刺入されていなくても針が倒れることはない。通常の鍼にも台座が使われており、患者はどちらの鍼治療を受けているのか視覚的にはわからなくなっている。

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 経穴は、鍼治療群で使用されたものと全く同じであるが、刺入はされていない。また、鍼通電療法においても電気は流れないように設定された。

 鍼治療以外の不眠症に対する治療は、新たに加えないように指導した。ただし、すでにエスタゾラム(1-2mg)を投与されている参加者に関しては、介入期間中継続して使用が許可された。ベースライン時に不眠症に対してエスタゾラムを使用していた患者は、鍼治療群で9人、sham鍼治療群で10人であった。

Liらが用いた主要評価項目と副次評価項目

 主要評価項目は、ベースライン時と鍼治療終了時(8週目)のピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)の変化とされた。PSQIは、7つのサブスコア(睡眠の質、入眠潜時、睡眠時間、睡眠効率、睡眠障害、日中の機能障害、睡眠薬の使用)で構成される、0〜21点で評価する自己評価質問票である。PSQIを、ランダム割り当て前(ベースライン時)、治療中(4週目)、治療終了時(8週目、主要評価時点)、およびフォローアップ期間中(12週目と20週目)に評価した。

 副次評価項目は、

  1. 更年期障害特有の生活の質に関する質問票(Men-QoL):0週、4週、8週、12週、20週
  2. アクチグラフに記録された睡眠指標(TST:総睡眠時間;SE:睡眠効率;SA:睡眠覚醒;AA:平均覚醒数;WASO:中途覚醒):0週、8週
  3. 不眠症重症度指数(ISI):0週、8週
  4. 自己評価不安尺度(SAS):0週、8週
  5. うつ性自己評価尺度(SDS):0週、8週

であった。対象者は、試験終了時に彼女らが受けた治療が「鍼治療」「sham鍼治療」、もしくは「わからない」の3択で評価した。加えて、鍼治療に関連する可能性のある有害事象(AE)すべてが記録された。

 ベースライン時の、社会人口統計学的特徴、臨床的特徴、不眠症の危険因子に関して両群間で差はみられなかった。参加者の平均年齢は52.5歳、不眠症の期間は39.7カ月であった。最初の治療の前に実施した、鍼治療に対する期待に関するアンケートで、ほとんどの女性が自分のPMIが鍼治療によって改善されると信じていると述べた。

鍼治療を続けて3カ月後の変化、sham鍼との有意差も

 まず、主要評価項目についてだが、PSQIのベースライン時からの変化は、鍼治療群で-3.76、sham鍼治療群で-1.38であり、その差は-2.38となり有意であった。面白いことに4週の時点ではこの有意な差はみられず、12週および20週のフォローアップ期間ではその差は大きくなった(図2)。PSQIの7つの要素の中でも、睡眠時間、睡眠の質、睡眠障害、習慣的な睡眠効率において、2群間で有意な差が認められた。

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 次いで、副次評価項目である。Men-QoLにおいてもPSQI同様の結果が観察された。鍼治療群は、治療後の8週、およびフォローアップ期間の12週と20週において、Men-QoL血管運動分野および身体分野でsham鍼治療群よりも低いスコアを示した。ただし、心理社会的および性的分野については、どの時点でも群間に有意な差はなかった。

 アクチグラフを用いた睡眠状態の評価では、治療終了時においてTST、SE、AAの項目で、鍼治療群のほうがsham鍼治療群と比較して有意な改善を認めた。ただし、SAとWASOには有意な差はみられなかった。

 不眠症の重症度、不安、うつ状態の副次評価については、不眠重症度のISIと不安評価のSASで、鍼治療群のほうがsham鍼治療群と比較して有意に低い値となった。しかし、うつ状態評価のSDSには差は認めなかった。

 エスタゾラムの服用に関して、治療後、鍼治療群の3人がエスタゾラムの服用を止め、sham鍼治療グループの1人がエスタゾラム療法を開始することになった。盲検化の評価に関して、sham鍼治療群の盲検化は成功してはいたが、鍼治療群のほうがより多く正しく推測できていた。有害事象は、鍼治療群で2人(出血1人、痛み1人)、sham鍼治療群では1人(痛み)であったが、それらすべて軽度であり、被験者は脱落せずに試験を完了した。

鍼治療により交感神経やホルモン分泌が調整される可能性

 いかがであっただろうか。更年期症状への鍼治療というと自律神経(血管運動神経)系に焦点が当てられることが多い。対して、Liらは不眠症に注目した。Liらの半標準化、患者の盲検化、ランダム化された、sham対照試験では、8週間の電気鍼療法がPMIの患者に対してsham鍼治療よりも効果的であることを示した。鍼治療が、睡眠時間の延長、睡眠の質の改善、睡眠障害の減少、習慣的な睡眠効率の向上に影響を与えることが示唆され、これらの影響はすべて、フォローアップ期間中でも観察された。

 つまり、鍼治療が短期的な症状緩和だけでなく、治療後3カ月まで続く長期的な改善をもたらすということである。これらはアクチグラフを用いた評価でも検証された。加えて、いくつかの更年期症状(血管運動神経領域および身体領域)および不安の改善を認め、重篤な有害事象は1件も見られなかったのである。

 鍼治療がどのような機序でPMIを軽減するかは不明である。Liらは、鍼治療が交感神経中枢である延髄吻側腹外側野(RVLM)の酸化ストレスを軽減し、交感神経興奮性を調節するのではないかと考察している。加えて、視床下部-下垂体-副腎系の活動亢進の調節、視床下部での糖代謝を減衰なども考えているようである。

PMI患者の場合、エストラジオールの低下と黄体形成ホルモン量の上昇が大きく関与していると考えられる。鍼治療によって、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン、および性ホルモンを安定させる黄体形成ホルモンの量が改善する過去の報告にも注目している[5]。

 更年期症状に当てはまる不調には別の病気が潜んでいる場合もあり、実際に施術を行うには注意が必要ではあるが、鍼治療の効果が強く期待される結果であることに違いはない。日常生活に支障が出るほどではないが、不調を訴える患者に対しては積極的に鍼治療を勧めてみてはいかがだろう。

【参考文献】
1)Prairie BA, Wisniewski SR et al. Symptoms of depressed mood, disturbed sleep, and sexual problems in midlife women: cross- sectional data from the study of Women’s Health Across the Nation. J Womens Health (Larchmt). 2015;24(2):119–26.
2)Cheuk DK, Yeung WF et al. Acupuncture for insomnia. Cochrane Database Syst Rev. 2012.
3)Li S, Wang Z et al. Electroacupuncture versus Sham Acupuncture for Perimenopausal Insomnia: A Randomized Controlled Clinical Trial. Nat Sci Sleep. 2020;12:1201-13. https://doi.org/10.2147/NSS.S282315
4)Li S, Yin P et al. Effect of acupuncture on insomnia in menopausal women: a study protocol for a randomized controlled trial. Trials. 2019;20(1):308.
5)Zhu H, Nan S et al. Electro-Acupuncture Affects the Activity of the Hypothalamic-Pituitary-Ovary Axis in Female Rats. Front Physiol. 2019;10:466.


 


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