「 鍼灸(しんきゅう)ニュースレター No.10 」をリリース - 夏バテと鍼灸・東日本大震災と鍼灸治療・鍼灸東京宣言

鍼灸Newsletter しんきゅうニュースレター  No.10 2011年7月発行

1.「夏バテ」と鍼灸治療
2. 東日本大震災と鍼灸治療
3.「2011鍼灸学術大会 in東京」にて「日本鍼灸に関する東京宣言」を採択

身近で優しい医療として、社会での新たな役割をめざす鍼灸業界の取り組みや現状

「夏バテ」と鍼灸

政府は7月1日、事業者を対象にした 15%の電力の使用制限を開始しました。これに伴い、スーパークールビズが提唱されるなど、いかに冷房に頼らず暑い時期を乗り切るかが今夏の課題となっています。

オフィスでも自宅でも、終日エアコンがある生活が当たり前になっており、私たちの体は、自然の環境変化に適応していく力が衰えています。今夏は、節電、省エネのためにエアコンの使用を控えるとともに、ぜひこの機会に自身の体質改善をめざしてみませんか。

電気や薬の力に頼らない鍼灸治療は、究極の“エコ医療”であると言えます。暑さに負けない体づくりについて、明治国際医療大学鍼灸学部の健康・予防鍼灸学教室の矢野忠さんに詳しく話を伺いました。また家庭にある爪楊枝などを使って簡単にできるセルフケアとして、①環境の変化に素早く反応できるツボ、②夏バテで不調になりやすい胃腸を整えるツボ、③胃腸を崩すことで起こる関節症の際に刺激するツボも紹介します。

究極の“エコ医療”で夏場を乗りきる~自然治癒力を UPするツボ~

明治国際医療大学 鍼灸学部学部長
健康・予防鍼灸学教室 矢野忠

 
鍼灸は内なる治癒力を活用した“エコ医療”
「早寝早起きをし、心持はのびのびとさせ、日中は大いに汗をかく」。これが『黄帝内経』(中国の最も古い医書。鍼灸医学の古典)に書かれている夏場の過ごし方です。ここには自然のリズムと調和した過ごし方が示されています。

私たちの体は、夏には夏の体、冬には冬の体になります。つまり、夏には皮膚血管が拡張し、放熱を盛んにします。それでも追いつかない時は発汗して体温の上昇を抑えます。一方、冬には皮膚血管が収縮して放熱を抑え、さらに代謝を高めて体が冷えないようにします。それでも追いつかない場合は体を震わせて熱を産生するのです。このように、体は周囲の状況をすばやく読み取って反応し、環境に適応しようとするのです。この適応しようとする力が、内なる治癒力のひとつです。

しかし、私たちの日常はどうでしょうか。夏には冷房、冬には暖房、一年中快適な環境の中で暮らしています。このように人の力で作った快適環境下で生活していると、夏の暑さ、冬の寒さに適応する力は衰え、環境に負けてしまうのです。近年、冷房病や冷え症が増えていますが、少なからずこうした人工的な環境による適応力の低下が関与しているものと思われます。つまり、内なる治癒力の衰弱が根底に横たわっているということです。

では、本来の体に戻すためにはどのようにしたらよいのでしょうか。私たちの体は、日々の取り巻く環境によって育てられます。暑さ、寒さにある程度体をさらすことで環境に負けない内なる治癒力を養うことができるのです。その知恵は、前述の『黄帝内経』に示されているように、鍼灸医学の根底を成すものです。鍼灸では、鍼と灸という単純な治療手段を用いて体表の特定部位(ツボ)に微細な刺激を作用させることで、内なる治癒力を高めようとします。しかも病態に合った治癒力を引き出し、病気を快癒させようとします。だからこそ数千年を経た今でも鍼灸治療に効果が期待 できるのではないでしょうか。薬を使わず、内なる治癒力を活用する鍼灸は、体に優しく、ほとんど副作用の無い医療として、今も人々の生活の中に深く入り、健康維持・増進および病気の治療に寄与しています。

いずれにしても、私たちは人の力で問題を解決しようとしても、次の新たな問題を引き起こしてしまいます。例えば鎮痛薬の連用により胃を痛めてしまうことなどはよい例です。人工的な介入(治療)の限界なのではないでしょうか。今度の東日本大震災による原発事故も本質的には同様のことです。この度の未曽有の災害を契機として、原発依存によるエネルギーから自然エネルギーへの転換が指摘されていますが、それは医療においても同様だと思います。人が開発した薬による治療に頼る前に、まずは体内にある自然薬で治療してみることを真剣に考えなければならない時にきたのではないでしょうか。まさに体が本来持っている治癒力を尊重しようとする医療が鍼灸であり、鍼灸医療は、エコ医療そのものなのです。

ツボ刺激で夏場を元気に!
①環境変化に素早く反応できる体作りのツボ
気温やストレスなどの環境変化に素早く反応できる体づくりから始めましょう。私たちの体には気の通路である経路があります。体表をくまなく流れ、外からの様々なストレスから身を 衛まもっている「 衛え 気き」を充たすために、「 大椎だいつい」というツボを薦めています。1日1~2回、家にある 爪楊枝つまようじを使って作った爪楊枝鍼で 30秒ほどタッピング(軽く叩いて刺激)します。
「大椎」のツボを中心に、周囲の皮膚に赤みが出る程度に刺激して下さい。
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②胃腸の機能を整える
夏は冷たいものの摂りすぎで、体調を崩しがち。その予防として、あるいは体調をよくするために「 足あし 三里さんり」と「 中脘ちゅうかん」に温灸をします。これらのツボは胃腸の調子を整え、体に力をつけてくれるツボです。市販の温灸か、温灸用の 艾もぐさを使って行います。「中脘」には、スライスした生姜の上に温灸用の艾を載せて作る 生姜しょうが 灸きゅうをお薦めます。

1つのツボに対し、1回につき3回程度行ってください。健康維持には週1回程度、少し体調が悪いときは週2~3回程度しましょう。万が一、ヒリヒリとした感覚が起こったときには途中でも温灸を取り除いて下さい。我慢すると火傷することがあります。
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東日本大震災と鍼灸治療

去る 3月 11日に起こった東日本大震災。発生から既に 3カ月がたったものの、仮設住宅の建設が遅れたり、避難所ごとの支援体制に差が出たり、いまだ問題は山積みです。

鍼灸治療が心身ともに疲れ切った被災者へのケアとして有効であるということは、徐々に知られてきました。まだエビデンスこそ十分ではありませんが、アメリカ同時多発テロ事件後の米兵や、阪神大震災の被災者へのケアの実績もあります。

震災の被害や原発問題により避難所生活を送っている方はいまだ 9万人以上(6月 9日現在)もいると言われています。

今回は、主に福島県川内村、富岡町の住民約 2,000人以上を受け入れた大規模避難所にて、3月20日以降、継続的に鍼灸ケアと介護予防運動指導のボランティア活動を行っている社団法人福島県鍼灸師会の中沢良平さんに話を伺いました。

また後半は、震度 5の大地震の経験、計画停電、そして連日の報道などにより精神的ダメージを受けた首都圏に住む私たちへの影響として、ストレスなどによる胃の痛みと関節症の関係について、明治国際医療大学の篠原昭二さんに解説していただきました。

東日本大震災後に被災地で貢献する鍼灸治療
~福島県内の避難所における鍼灸ケア・ボランティア活動~

社団法人福島県鍼灸師会・副会長
中沢良平さん

 
鍼灸師ならではの被災者ケア“心と体へのアプローチ”

地震による強い揺れや押し寄せる津波への恐怖、身近な方の死などの経験で発生する精神症状に、心的外傷後ストレス障害(PTSD= Post-Traumatic Stress Disorder)があります。このPTSDは、被災者の5~10%の方が発症するといわれています。症状としては、思い出したくない出来事を思い出してしまう「侵入」や、悪夢を伴う不眠や音などに過敏に反応してしまう「過覚醒」、その出来事をなるべく考えないようにする「回避・麻痺」などがあります。被災地以外に住んでいる方でも、経験したことのない大きな地震や、悲惨な映像を報道で見ていることもあり、今回の震災で恐怖感を覚え、不眠やちょっとした音に敏感となっている方は多く見られます。

このPTSDに対し、鍼灸ケアでどのような効果を期待できるのでしょうか。鍼灸師が行うケアの特長として言えるのは、とにかくゆっくりと話を聞いて精神的な負担を取り除いてあげること。患者の話を聞き、直接肌に触れながら、一人ひとり異なる治療をしていきます。今回の場合は特に、

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治療ブースはいつも満員

自然災害や原子力発電所事故への恐怖、親しい人との別れによる悲哀に対して共感し、寄り沿う気持ちを大切にしています。もし被災者が感情を外に出していなかったとしても、精神的に非常に弱い状態におかれていることを察知してあげることです。

被災者の声に傾聴と共感をし、そして辛いところに手を当て、五感をもって身体の不調を理解する。“鍼灸ケア”により不眠が改善され落ち着いた気持ちになれるのは、単に治療技術によるものだけではなく、鍼灸師が大切にしている共感と思いやりの精神とに基づいて心と体にアプローチする施術だからなのでしょう。

避難所生活を送る高齢者の肺塞栓症と転倒予防のリスク
避難所を覗くと、そこには多くの高齢者がおられます。子供たちは少なく、少子高齢社会の日本の縮図を見ているかのようです。

慣れない土地で高齢者は動くことを嫌い、寝ておられる方が多いです。土地勘がないので、外出を控える傾向もあるかもしれません。また、トイレまで遠いので、水分の摂取を控える方も多いです。

避難所生活が長引くと心配されるのが、エコノミークラス症候群(=深部静脈血栓症)による肺塞栓症です。新潟県中越大震災では、避難所で過ごされた方の5~10%の方に深部静脈血栓が認められました。運動不足と水分不足が続くと発症の確率は高くなります。また、長期間同じ姿勢のまま歩かないでいると足の筋力が落ち、廃用症候群(安静状態が長期に 渡って続く事によって起こる、さまざまな心身の機能低下等)の発症も心配されます。

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高齢者に運動指導をするには、過度な運動で腰などを痛めないよう、特定の知識が必要になります。鍼灸師は国家資格ですので、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターの所定の講座を受講し合格すると、介護予防運動指導員として登録されます。福島県鍼灸師会では今回、この資格保有者が、エコノミークラス症候群予防の運動指導をしました。

大きな声を出して笑いながら楽しくやっていたらどんどんと人が集まり、最後には億劫そうにしていた方も参加して、皆で久しぶりに体をほぐし、気持ちが良さそうで大変好評でした。

静と動の相乗効果
鍼灸治療を行うことで、体内のリンパ球が増え、免疫力が高くなることがわかっています。運動を組み合わせることで、病気予防や介護予防といったダブル予防効果が上がり、プライマリ・ケアとして充分機能します。

鍼灸医療は心の声を聴く静的治療で、運動はまさしく動的治療。心や身体を鎮めたり高めたりすることで一層の心身のバランスが取れていくと、被災者ボランティア治療で感じました。
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伝統医学の経絡を活用したセルフケアのすすめ
~顎関節、股関節、膝関節の痛み~

明治国際医療大学 伝統鍼灸学教室
教授 篠原昭二

胃の異常と関連する身体の経絡(スジ)
この度の大震災では被災地以外の人々においても、親族や知人の安否を心配したり、連日の報道で被災地の悲惨な情景を目の当たりにしたりして、相当の精神的ストレスを受けている人が多いのではないでしょうか。こうした心理的な要因が身体の関節の痛みとして現れることを、鍼灸の臨床上しばしば経験します。例えば、何かストレスになることを想像しただけで胃がキューと締め付けられるような不快感を自覚して、その後、顎関節の痛み、上の奥歯の歯茎の腫れや痛み、股関節前面の痛み、膝関節前面の痛みなどを訴えることがあります。但し、ほとんどの患者さんは、胃の痛みと顎や歯茎、股関節、膝関節が関連していると理解している人は、残念ながらいません。

ところが、鍼灸治療を数回継続する患者さんに対して、「膝の痛みが出る前に何か嫌なことがありませんでしたか?」と尋ねると、びっくりしたような表情とともに、膝と心の問題が関連しているのかどうかを、自問自答する姿を目にし、さらに、日を変えて質問したとき、確信的に納得される患者さんが多いのです。もっとも、食べ過ぎ、飲み過ぎなどの飲食の不摂生をするとより症状が強くなるのは当然ですから、胃を休めてあげることが必要です。

下図は、胃の異常と関連する経絡の流れ(流注)と関連する症状をまとめたものです。胃の異常(機能的で一時的な症状や潰瘍のような器質的な異常)によって、胃と関連する経絡である足陽明胃経が失調すると、額や頭部前面が重い、だるいといった感じや眼瞼下垂、上の歯の痛み、口内炎が出来る、唇が荒れたりかさつく、顎関節の痛み(顎関節症)、胸のしこり、腹痛、吐き気、ゲップ、胸焼け(逆流性食道炎)、股関節前面の痛み、膝関節前面の痛み、躁状態や鬱状態など、多彩な愁訴を訴えることがあります。

嫌なこと(特にイライラしたり、腹が立つことなど)に遭遇するといったストレスが原因で生じる愁訴群ではあっても、胃の異常と身体各部の愁訴との関連など、ほとんど明らかにされていないことではありますが、伝統医学(経絡学説によれば)ではごく当たり前の現象と言えます。
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胃と関係する経絡【足陽明胃経】

セルフケア~胃と関連するツボ~
胃と関連する足陽明胃経は足指の 2から 3指と関わっています。したがって、2と 3指の指の付け根(内庭)から第 2~4中足骨の間(中足骨間)を圧迫(指圧)するとき、かなり強い圧痛を自覚することが多いです。これらの圧痛部位を暇があれば刺激をしておくと、逆に、顎関節や股関節、膝関節の症状が和らぐこともあります。薬局などでは多くのツボ刺激グッズも市販されています。そういったグッズや温灸治療などを用いても差し支えありません。
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絆創膏やテーピング用のテープをこれらのツボ周辺に貼付するだけでも明らかな鎮痛効果が得られることも明らかにされつつあります。

胃の働きが足指と関連するかどうかは、今後一層の医学的研究の進歩を待たなければなりません。しかし、数千年来伝承されてきた経験的な知恵は、明らかな効果を約束してくれるはずです。また何よりも、自分で、自分の身体の中にある超過敏なツボを発見することは大きな冒険であり魅力であるとともに、そういったツボに対するセルフケアとしてのツボ刺激が、それなりの鎮痛効果を発揮してくれたなら、これほど安全、安心、安上がりな方法はありはしないでしょう。

「2011鍼灸学術大会 in東京」にて「日本鍼灸に関する東京宣言」を採択

去る6月19日(日)、全日本鍼灸学会第 60回学術大会(テーマ「新たなる医療へ~心と身体をみつめる日本鍼灸の叡智~」)が、日本伝統鍼灸学会第 39回大会との共催により、東京有明医療大学にて開催されました。「鍼灸を取り巻く国内外の状況」や「心と身体を見つめる日本鍼灸の叡智」、そして「日本の伝統医学を世界に発信しよう」などのテーマで講演やシンポジウムが行われ、大会の最後には、日本鍼灸を世界に発信しようと「日本鍼灸に関する東京宣言」が採択されました。
この「東京宣言」の内容について、一部抜粋して紹介いたします。詳しくは大会ホームページにて、全文をご覧いただけますようお願いいたします。(http://taikai.jsam.jp/)

日本鍼灸に関する東京宣言 2011
―21世紀における日本及び世界のより良い医療に貢献するために―

2011年 6月 19日

社団法人全日本鍼灸学会、日本伝統鍼灸学会

1. 鍼灸に関する最新の知見を医学界及び国民に向けて広く発信し、鍼灸への正しい理解と適正な医学的評価を得ることに努める。

2. 鍼灸の臨床効果を立証するために相応しい研究デザインを確立し、世界の鍼灸臨床の有効性と安全性に関する研究の発展のために貢献する。

3. 日本の伝統医学である鍼灸を医療システムにおいて適切に位置づけることに努める。

4. 鍼灸は日本の貴重な文化的遺産の一つであることの理解を深め、さらにその普及に努める。

5. 日本鍼灸と世界各国の鍼灸との交流を推進し、各国の鍼灸に対する相互理解を深め、その特色を尊重し、世界における鍼灸の多様性の維持・継承と発展に努める。

6、心と身体をトータルにみつめる鍼灸医療を通して、これまで以上に人々の健康保持増進、疾病予防及び治療に寄与することに努める。

この東京宣言の内容は時代とともに変わるものであり、決して固定化されるものではないと考える。それは、鍼灸が、未来に向けて進化・発展する使命を内包しているからに他ならない。

東京宣言起草委員会委員
委員長 坂本歩
委 員 後藤修司(社団法人全日本鍼灸学会会長)形井秀一(日本伝統鍼灸学会長)
 石原克己 伊藤和憲 小川卓良 川喜田健司 北小路博司
 小松秀人 篠原昭二 妹尾匡躬 高橋大希 東郷俊宏
 戸ヶ崎正男 福田文彦 船水隆広 村上哲二 矢野 忠
 山口智 山下仁(五十音順)

宣言の解説
(1)と(2)の宣言
現代西洋医学でも効果が十分でない慢性疼痛疾患、加齢に伴う運動器疾患と障害などの相補的医療として今まで以上に鍼灸医療を機能させていくことは、質の高い医療の提供に繋がり、患者にとって大きなメリットとなるはずである。また、鍼灸医療の診療内容からいってプライマリーヘルスケアやプライマリーケアとして十分に活用することが可能である。さらには、癌患者の緩和ケアなど幅広く医療的な利用価値を提示し、 QOL向上に寄与することが必要である。そのためには、日本および世界各国の鍼灸臨床に関する質の高いエビデンスを蓄積し、その成果を医療関係者および国民に向けて強力に発信し、これまで以上に鍼灸の啓発と普及を図らなければならない。日本における鍼灸研究においては、基礎医学的研究が数多く報告されており、治療効果のメカニズムに関して一定の確証が得られるまでに進展している。これらの知見を国際的な学術交流を通して発信し、鍼灸医学の基礎研究の発展に貢献する必要がある。一方、鍼灸の臨床研究については、ランダム化比較試験による検証も必要であるが、鍼灸本来の特性に沿った臨床研究のデザインを検討し、鍼灸固有の臨床効果について研究を行い、その成果を発信することが望まれる。また、鍼灸治療は安心・安全な医療であることは学術的な観点から見ても明らかであり 20-22)、この点についても理解を広めなければならない。特にディスポーザル鍼の使用やクリーンニードルテクニックの実践をより広く普及させる必要がある。今後とも治療で用いる器具等の安全性についてエビデンスを追求するとともに、より安全性の高い治療用具の開発を行い、世界をリードすることが重要である。

(3)と(4)の宣言
加えて、鍼灸は日本医学の一分野として発展してきた伝統医学でありまた貴重な文化的遺産でもあり、いわば日本のアイデンティティーであることの理解を国民の中に広く啓発し、日本鍼灸の発展を図ることが肝要である。また、中国や韓国においては、鍼灸医学が国の伝統医学として正当に位置付けられているように、日本においても医療システムの中に適正に位置付けられることが必要である。

(5)の宣言
一方、世界に目を移すと鍼灸はもはや東アジアの伝統医学に留まることなく、グローバル化し世界の伝統医学になりつつある。そのような背景の下に鍼灸の国際的標準化の気運が年々高まってきているが、鍼灸を伝統医学としてきた国には、それぞれの歴史的発展がある。そうしたことから、中国や韓国を始めとする世界各国の鍼灸関係者と交流を深め、各国の鍼灸の特色を尊重することが肝要である。このことがそれぞれの国において鍼灸医学のレベル向上につながり、ひいては世界における鍼灸の多様性の維持・継承と発展に貢献するものと考えられる。

 
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