「 鍼灸(しんきゅう)ニュースレター No.11 」をリリース - COPDと鍼灸

鍼灸Newsletter しんきゅうニュースレター  No.11 2012年12月発行

1.「健康日本21(第2次)」 に慢性閉塞性肺疾患(COPD)対策
2.「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」と鍼治療

身近で優しい医療として、社会での新たな役割をめざす鍼灸業界の取り組み・現状

「健康日本21(第2次)」 に慢性閉塞性肺疾患(COPD)対策

公益社団法人日本鍼灸師会 常任理事 大口俊徳さん

「健康増進法」公布から10年

日本は高齢化が進み、疾病の構造が変化しています。国民の健康づくりや疾病予防を積極的に推進するための環境整備が望まれるなか、国の施策として国民の健康づくり運動「健康日本21」が2001年からスタートしました。この「健康日本21」を中核とし、医療制度改革の一環として2002年8月2日に公布されたのが「健康増進法」です。

「健康日本21」の推進運動開始から10年が経ち、健康増進法は基本方針を定めた第7条「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本方針」が、2012年7月10日に改正されました。改正後は、生活習慣及び社会環境の改善を通じて国民がそれぞれのライフステージで健やかに、そして心豊かに生活するため、より具体的な目標が設定されました。この施策を「健康日本21(第2次)」とし、2013年度から始まることとなりました。

増加する慢性閉塞性肺疾患の患者数

世界では、COPDの患者数は2億人、年間死亡者数は300万人と推定されています。日本でもCOPDによる死亡者数は増加傾向にあり、2010年は16,293人で、死亡順位は9位、男性では7位です(表1)。

表1 日本における性別にみた死因順位
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(厚生労働省「平成22年人口動態統計」より)

2000 年の日本における40 歳以上のCOPD有病率は8.6%、患者数530 万人と推定されていますが2)、2008年患者調査によると、医療機関に入院または通院しているCOPD患者数(治療患者数)は約17 万3千人です3)。つまり、大多数の患者が未診断、未治療なのです(図1)。

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予防と早期発見が大事

「健康日本21(第2次)」では、がん、循環器疾患、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対処するため、食生活の改善や運動習慣の定着などによる一次予防(生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病の発症予防)、合併症の発症や症状の進展等の重症化予防に重点を置いた対策を推進しています。そして、各疾患に対する具体的な目標は次のように設定されています。

がん:年齢調整死亡率の減少とともに、特に早期発見を促すため、がん検診の受診率の向上
循環器疾患:脳血管疾患及び虚血性心疾患の発症の危険因子となる高血圧症の改善、脂質異常症の減少と、これらの疾患による死亡率の減少など 
糖尿病:血糖値の適正な管理、治療中断者の減少及び合併症の減少など
COPD:喫煙が最大の発症原因であるため、禁煙により予防可能であり、かつ早期発見が重要であることから、これらについて認知度を向上させる

「健康日本21(第2次)」について詳しくお知りになりたい方は、厚労省のホームページのアドレスにアクセスしてみてください。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkounippon21.html

「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」と鍼治療

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の息切れに対して、鍼治療の臨床試験を行い、その結果が米国の内科学会誌に取り上げられました。

「健康日本21(第2次)」でCOPD対策が重視されるなか、時宜を得た、そして質の高い鍼の研究成果が世界的に有名な医学学術雑誌「Archives of internal medicine(アーカイヴス・オブ・インターナル・メディスン)」誌に発表されました。明治国際医療大学鍼灸学部鍼灸学部准教授の鈴木雅雄さんらが行ったCOPDに対する鍼治療のランダム化比較試験です。息切れの症状が改善されることを検証したこの論文は、国内外の主要メディアで取り上げられ、鍼治療がCOPDで苦しむ患者さんの手助けになる可能性を強く示唆しています。その研究成果の概要を鈴木さん自身に執筆していただきました。

鍼治療で慢性閉塞性肺疾患(COPD)の息切れを改善

明治国際医療大学鍼灸学部 准教授 鈴木雅雄さん

 
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、日本では530万人以上いると推計されており、世界保健機構(WHO)の報告では2020年には死亡原因の第3位と推定されています。COPD患者の多くは喫煙が原因で40歳以上で発症し、進行性に病状が悪化していきます。初めは階段を上るなどの運動時の息切れや慢性の咳、痰が続きますが、進行すると入浴、排泄、食事などの軽作業でも息切れが起こります。ひどい場合には臥床を余儀なくされる場合があり、患者のQOL(生活の質)を低下させていきます。したがって、米国のCOPDガイドラインにも症状(息切れなど)を管理することが重要であると報告されています。

これまで、鍼治療では痛みの治療に対して効果を発揮してきましたが、息切れも痛みと同様に患者が自覚する感覚のため、鍼治療でも有効であるという説がありました。また、鍼治療が気管支喘息にも臨床的に用いられてきた経緯もあり、私たちは、COPD患者の労作時の息切れに対して、「鍼治療が有効であるか」ということを世界で初めて調べました*1。

*1 Masao Suzuki, Shigeo Muro, Yuki Ando, Takashi Omori, Tetsuhiro Shiota, Kazuo Endo, et al. A Randomized, Placebo-Controlled Trial of Acupuncture in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD)The COPD-Acupuncture Trial (CAT). Arch Intern Med. 2012;172(11):878-886. doi:10.1001/archinternmed.2012.1233
http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1151703

 
喫煙が原因で発症するCOPD

COPDの90%以上の患者さんは喫煙が原因でこの病気を発症しています。タバコに含まれる有害物質が気管支や肺胞を壊してしまい、酸素や二酸化炭素の交換ができなくなります。通常、健康な肺は新しいゴム風船の様に弾力性に富んでおり伸び縮みが自由自在ですが、COPDの肺は伸びきってしまったゴム風船のように弾力性が低下してしまいます。そのため、肺は膨らむものの縮みにくくなるため、空気が肺の中に残ってしまい息が吐けない状態になります。これを専門用語では“閉塞性換気障害”と呼びます。

 COPDの息切れは種類があります。1つは、酸素や二酸化炭素の交換がうまくできないので、低酸素や高二酸化炭素による息切れです。2つめは、COPDの肺は伸びきっているため、健康な肺と比べると大きくなっています。これを肺過膨張と呼びますが、肺過膨張になってしまうと肺の下に着いている横隔膜が下げられてしまいますので、横隔膜呼吸ができなくなります。これにより息切れが起きます。横隔膜は最大の呼吸筋ですので、横隔膜呼吸が妨げられると、とても強い息切れが出てきます。

しかし、呼吸は生命維持として生体では機能していますので、呼吸ができないと何とか呼吸を保とうとして、横隔膜以外の筋肉を使って呼吸を行います。呼吸の補助を行う筋肉ということで、呼吸補助筋と呼びますが、呼吸補助筋は全身に存在しており、特に首、肩、背部、腹部、腰部に多くあります。これらの筋肉は主な作用を持っていますが、呼吸が危ないと判断された場合は、いつもの仕事兼呼吸運動を行いますので、筋肉の仕事量が増えてしまい、疲労を起こします。これを専門用語で呼吸筋疲労と呼びます。この呼吸筋疲労が起こると呼吸がやりづらくなるため、息切れをさらに強く感じてしまいます。

 COPD患者さんの多くは呼吸筋疲労が認められるため、病気に加えて筋疲労が原因で息切れが悪化している場合もあります。

表2 COPD質問表 (17点以上でCOPDを疑う)
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<参考> 
Chronic Airways Diseases ; A Guide for Primary Care Physicians. International Primary Care Airways Group(IPAG).2005.
IPG診断・治療ハンドブック日本語版.

 
COPDの患者さんに鍼治療を

 鍼治療は肩こりや腰痛など筋肉由来の症状にとても高い効果が認められています。鍼刺激には筋の緊張や疲労の改善効果が報告されていますので、この鍼刺激の効果を呼吸筋疲労に陥ったCOPD患者さんに応用しました。

 息切れを有する軽症から最重症までのCOPD患者さん26名を対象に鍼治療を週1回のペースで10週間行い、息切れの評価を6分間歩行試験*2で行いました。

 その結果、息切れスケール(図2)で4から2まで改善し、さらに動脈血酸素飽和度も88.5%から91.4%まで改善しました(図3)。この結果から鍼治療には息切れの改善に加えて酸素の状態も改善することがわかりました。

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図2 息切れスケール 図3 鍼治療前と治療10週後の息切れスケールと動脈血酸素飽和度最小値

 
*2 6分間歩行試験:直線距離で30m以上ある廊下を、6分間最大限の努力で歩行し、その際の息切れ度合について息切れスケール(Borg scale)を用いて評価を行い、さらに、歩行距離、動脈血酸素飽和度、脈拍なども評価する試験です。

次に、息切れを有する68名のCOPD患者さんを対象に皮膚のみを刺激する鍼治療(Placebo群)と筋肉を刺激する鍼治療(通常治療群)の2グループに分けて週1回で12週間の治療を行いました。

 その結果、筋肉を刺激する通常治療群では息切れスケールが5.5から1.9まで改善し、さらに動脈血酸素飽和度も86.0%から89.5%まで改善しました(図4)。

 この結果より呼吸筋に鍼治療を行うことでCOPD患者さんの息切れや酸素状態の改善が認められました。
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図4 皮膚刺激の鍼治療(Placebo群)と筋肉刺激の鍼治療(通常治療群)の比較

 
鍼の併用がCOPDの治療の一助に

COPDの治療には薬物治療、在宅酸素療法、呼吸リハビリテーション、栄養治療などがありますが、ガイドラインではこれらの治療を総合してCOPD患者の重症度に合わせて治療することを推奨しています。言いかえれば、単独治療では限界があるという現実がCOPDの治療にはあります。また、COPD患者さんの一番困っている症状は“息切れ”ですが、現行の治療は息切れをターゲットとした治療は少なく、治療効果も頭打ちになっています。

 一方、鍼灸治療にはCOPD患者さんの息切れの改善に有効であることが示されました。ガイドラインで推奨されている治療に加えて鍼灸治療を併用することは、今後の新しいCOPD治療の形になるのではないかと考えています。

 
ダウンロードはこちら → newsletter_no11


 


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