「鍼灸(しんきゅう)ニュースレター No.18」をリリース – 地域包括ケアシステムと鍼灸〈3〉

鍼灸Newsletter しんきゅうニュースレター  No.18 2015年9月発行

【ルポ】地域包括ケアシステムと鍼灸〈3〉

『介護経験からくる深い洞察が、地域医療の未来を拓(ひら)く』
~地域に根ざした 、医療・介護と鍼灸の連携~

 旧山形県庁の文翔館など、市内のあちらこちらに大正ロマンが息づく街、山形県山形市。市の推計では、平成11年度に約2万人だった後期高齢者が、平成36年度には約4万人と倍増が予想されるといいます。急速に進む高齢化は、ここ山形市も例外ではないようです。その山形市で鍼灸院を開業して10年目の會田(あいた)哲司(さとし)氏は、実際に治療の可能性を目の当たりにして、介護の世界から鍼灸の道に入りました。今日は、その會田先生の患者さんのひとりである、宮田ヨシさん(仮名)の診療日です。宮田さんが入所する宿泊型デイサービス介護施設での往療に同行し、お話を聞きました。

 

「住み慣れた地域で、自分らしい暮らし」は、国が描く地域包括ケアシステムの姿です。地方自治体を軸として、医療や介護、介護予防、生活支援といったサービスを、おおむね30分以内で提供できるように構築される地域包括ケアシステムですが、一口に「住み慣れた地域」と言っても、我が家と施設とでは、やはり勝手が違います。

 

-筋肉をゆるめて、痛みもストレスもすぅっと解消
 施設の窓からは、遠くに雪をいただく蔵王連山が望めます。そして、個室のベッドの上、電話交換手のお仕事をしていただけあって、しっかりときれいな言葉で話す宮田ヨシさん。會田先生とのコミュニケーションも良好のようです。さっそくうつぶせになると、その背中に會田先生の指が走ります。脳梗塞で倒れてから5年、會田先生は平成22年から宮田さんの治療をしています。退院当初に残っていた左手のマヒもだいぶ良くなり、要介護4の状態から要介護3に改善されたそうです。

 筋肉をゆるめてあげればいい。経絡やツボ(経穴)といった鍼灸治療の基本を「古典」と呼ぶ會田先生は、その古典を言葉にして伝えることなく、ただ宮田さんのマヒや肩・腰の痛みを取り除けるように、指をすべらせ鍼を刺していきます。その鍼から電気を流す「鍼電極低周波治療」が始まりました。通電は、短い時間で効果が現れやすいので、時間が限られているような状況では、とても効果的なのだそうです。施術後、宮田さんの肌に触れて感触の違いを確認する會田先生。「むずかしい治療穴の話は無しね」と笑う先生に、宮田さんが優しく頷きます。會田先生は大腸兪、腎兪といった腰痛に効き目のあるツボに鍼を刺し、15分間通電しました。

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鍼通電による腰部の治療

 施設に入所する高齢者は、生活環境の良さから動くことが少なくなり、身体に弊害も出てくるようです。その大きなものが、硬結(血の流れが悪くなる)です。置鍼に電気の刺激が加わることで血流が良くなり、硬結による痛みが取れていくのだと言います。

  さらに會田先生は、集団生活によるストレスを気にしていました。宮田さんの言葉に耳を傾け、「寒くない?」「これ着た方がいいよ」と気遣います。こうした会話もストレス解消には役立つと會田先生。こうした何気ない会話の中の信頼関係が、施術にも影響があるそうです。

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施術後の会話

 

病気を治したい――患者さんの願いは、その一点に尽きるといいます。そこには西洋医学も東洋医学もありません。

 

-“医療専門職”としての自覚から信頼関係が生まれる
 「さて、どっちから起きようか?」と、宮田さんの自分で動こうとする姿勢を大切に、あくまでフォローに徹する會田先生。機能回復には歩くことが大切と、杖から歩行器に補助具を変更したのも、會田先生のアイデアです。「4点杖では不安が残るし、かえって自由に歩けない。歩行器を使ってもらえば、もっと歩いてもらえるし、それが機能回復につながる」。會田先生は鍼灸師になる前にケアマネジャーとして介護現場に長く身を置き、多くの経験を積んでいます。こうしたアイデアは、介護職の経験を持つことからも生まれ、患者さんの状態を多角的に捉える眼は、そのまま信頼にもつながっているようです。

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歩行器で施設内を自由に移動。會田先生の提案が宮田さんの行動範囲を広げた。

 「医師や看護師だけでなく、ヘルパーやケアマネジャー、福祉用具の開発者や製造メーカー・・・ひとりの患者さんを看るために、多職種の専門家が一つにまとまる。これが地域包括ケアシステムの目的であり、姿です」。こうした方々と意見交換、情報交換をするためにも、多角的に捉える眼や共通語が必要になってくるそうです。地域包括ケアシステムに“医療専門職”として鍼灸師が参入できることになった――これは喜ばしい出発点です。経絡やツボといった鍼灸独自の世界を、病気という素朴な観点からもう少しわかりやすく伝えていくことも、同じように大切なことだと教えてくださいました。

 

高齢者への往療において介護に関する知識は必要不可欠になっています。経絡や経穴といった鍼灸の世界を、介護とうまくマッチングさせていく――患者さんの声に耳を傾け、症状に合わせた施術を得意とする鍼灸師には、その能力が備わっていると會田先生はおっしゃいます。

 

-ひとりのためにひとつになる、これが地域包括ケアだと思うんです
 たとえば症状が改善された、状態が変わったというときに、そうした良い状態をなぜ作れたのか、第三者や他の専門職の人にも理解されるような説明ができれば、協力態勢が組めるはずと會田先生。そこからお互いの治療方針や内容の意見交換が進み、「じゃあ、こうすれば患者さんにとっての良い状態が作れますね」と、医療・介護スタッフとの輪が良くなることを期待されています。「ひとりのためにひとつになる、これが地域包括ケアだと思うんです。そのなかに鍼灸師がいて、そこに携わる人間に求められるものが変わってきていることは確かです」。會田先生の話はさらに続きます。

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會田哲司 氏 「鍼灸師には、介護の世界を知り、理解する力がある」

-二足のわらじを履いて、地域医療の未来を明るく照らす
 病院で在宅に復帰できる状況をつくってくれる、その後のケアプランは、病院にいるときから患者さんを看ているケアマネジャーが素案をつくる。退院間近のケアカンファレンスも、やはりキーマンはケアマネジャー。患者さんとの接点であり、要であるケアマネジャーと、患者さんの治療ができる鍼灸師。鍼灸師がこのケアマネジャーを兼ねることは、他職種連携のひとつの形なのかもしれません。ケアマネジャーとの“二足のわらじ”は、医療との連携を加速させ、地域医療の未来を明るく照らしてくれるはずと會田先生。「介護を受ける時も鍼の先生のところに行けばいいんだ」と思ってもらえることは、鍼灸師の地域貢献につながるものだと教えてくださいました。その瞳には、地域包括ケアシステムを牽引する明日の鍼灸師たちの姿が見えているようでした。

 
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1件のコメント

  • 王應時

    代田文誌様は私が尊敬している偉人です。先生は一生儒医でありながら、国民の健康を心配され、健康鍼灸促進のための活動を続けています。
    私は様々な日本の漢方に関する書籍及び台湾の東洋医学と称する書籍を熟読、研究しております。人々は針灸の使い方を分けておらず、病気を治療する医療目的として使われている事が多いのですが、1930年頃に日本は既に健康鍼灸が行われており、集団で施灸活動が行われていることを知らずにいる事を残念に思います。日本の多くの医師は患者に自宅で灸療することを勧めており、いかに灸療の効果が素晴らしいものかを称えています。  
    代田先生の早年の著書:“簡易灸療法”は私の信念を強く固めた医書です。“施灸は未病
    を治す”、古書にも記載されている、“上醫治未病,下醫治已病(賢明な医者とは病気の治療に優れている者ではなく、病気を事前に予防する事ができる者である。愚昧な医者は病気を治療する者である。)”という言葉がありますが、未病は健康な人の事を指し、施灸は免疫力を高め、体力を増強することができるのです。
    代田先生の時代から今日に至るまで、医学の進歩は計り知れないものです。しかし、健康養生において、灸療法は現代でもそれなりに未だ認められている療法であり、小生は一生懸命、本を熟読、研究し、小生の家族と友人を実験台として練習を重ねて来ました。はじめは雀啄灸からスタートし、徐々に広めて評判を固め、不足箇所は多々ありますが、背部のセルフ施灸は簡単に行う事のできない、最も克服しなければならない課題です。
    あるきっかけで電気灸法を発見し、セルフで施灸することはもはや大きな問題ではありません。この灸法を発見して以来、既に5回もの改良を行い、効能や機能、利便さは全て進化を遂げて来ました。私はこの製品を i Rod = Instinct Rod, (経穴楽活棒)と命名しました。
    代田先生は私の灸療法のスピリチュアルメンターです。今後も独り占めせず、やるべきことを積極的に行っていき、多くの方に無病無災害から遠ざけられるよう健康灸活動を世間に広めたいと思っております。
    (經穴樂活棒) i Rodは既に台湾および中国でPatent(特許)を取得しております。
    現在、日本で専属代理をして頂ける方を探しております。是非、小生からの提案をご検討くださいますようお願い致します。お会いして頂けるようでしたら、下記アドレスまでご連絡くださいますようお願い致します。
    wangec1202@gmail.com

    以上

    王 應時 敬具