「 鍼灸(しんきゅう)ニュースレターNo.12 」をリリース – 在宅ケアと鍼灸〈1〉

鍼灸Newsletter しんきゅうニュースレター  No.12 2013年6月発行

【ルポ】在宅ケアと鍼灸〈1〉

 ━━脳卒中後に右半身麻痺を発症した男性への鍼灸

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日本国民の死因はがん、心疾患、脳血管疾患の「3大成人病」が主役です。これらの疾病に対して、国は医療費を削減するため在院日数を減らして在宅で患者さんをみていこうという方向を示しています。

「団塊の世代」が後期高齢者になり終える2025年には、65歳以上人口が3199万人に達し、国民の4人に1人が高齢者という超高齢化時代を迎えます。なかでも要介護状態に至る主な原因疾患は、脳血管疾患が約21%、認知症が約15%、関節疾患が約11%、老衰が約14%と推計されています。特に認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ(1人暮らしが困難な場合もあるレベル)以上の人数については、2015年に250万人、2025年には323万人に達すると考えられるのです(2010 年厚労省報告)。自宅や地域で疾病や障害を抱えながら生活を送る人々が、今後も増え続けていくことが示されています。

これら在宅療養者への支援活動として医療や介護福祉など関係する職種がともに連携し、包括的で持続可能な在宅医療を提供することが求められています。そして、鍼灸師もまた在宅ケアの担い手としての役割が期待されるようになりました。

ここでは現在、鍼灸師が在宅療養の患者さんにどのように受け入れられているかを、家族の声とともにお伝えしていきます。

3年前の初夏。東京・北区在住の木村重雄さん(52)は、脳卒中に襲われ右半身マヒに障害(介護2)が残りました。自宅に戻ったあと、鍼灸師とともに鍼灸を取り入れた運動療法に取り組み大きな改善効果を得てきました。

少しでも良くなるために

木村さんの脳視床下部に出血が起こったのは、2009年6月のことでした。自室にいると突然目の前が真っ暗になったように感じ、床に崩れ落ちました。「このままでは死んでしまう」と、玄関の外へ這って出て必死に助けを求めました。

幸いすぐに近所の人が見つけてくれて救急車を呼び、一命は取りとめることができました。が、気づくと利き腕だった右の手がまったく動きません。なにかが触れても、まったく感覚がありません。

右足も同様に完全に自由を失い、トイレにも介助なしには行くことができません。最初の1ヵ月間は、そんな現実を受け止めることができず、ベッドの上でただボーッとして過ごすばかりでした。

入院は半年間続きました。リハビリも始まっていましたが、初めのうちはほとんど効果を感じることができません。壁伝いに歩こうとしてもすぐに転倒して、痛い目にあうことになります。「退院したら、どうやって生活していけるのだろうか?」と強い焦りと不安が募っていた時のことです。弟がこんな提案をしてくれました。「知り合いの鍼灸師が在宅の脳卒中の人たちに鍼灸をやっている。退院したら受けてみたらどう?」

鍼灸はそれまで一度も経験したことはありませんでしたが、「少しでも良くなるためならなんでもやってみたい」と答えていました

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血圧測定などのバイタル検査を受ける木村さん

転倒せずに歩くことができれば

鍼灸治療院「健康ハウス・タカダ」を経営する髙田常雄鍼灸師は、ケアマネジャーも兼務しています。

木村さんの要望に応じた退院後の運動療法の計画を立てるために入院先の病院を訪れました。「転倒がこわいんです。病院の中でも、仮退院で家に帰った時も転んでしまいました。とっさの受け身ができません。トイレにも自分で行きたい、それに退院したら駅前の本屋にも行きたいのです。現在の状態ではこわくてとても外出などおぼつきません。早く元の身体に戻りたいです」と木村さんは訴えました。

これに応じて、短期目標として「家の廊下を歩く」、長期目標として「駅前の書店に行く」という計画が立てられました。そのほか、脳卒中の大きな要因になったと考えられる高血圧の改善や入浴介助、通院介助、福祉用具の貸与などのプログラムからなる「居宅サービス計画書」が作成されました。高齢のお母さんの介助を受けながら、鍼灸を取り入れたリハビリ生活がスタートします。

上肢、下肢の運動域が大きく改善

「こんにちは。お元気ですかー?」

 今日も「健康ハウス・タカダ」のスタッフである挽野ひきの順子鍼灸師が、木村さん宅を訪れました。彼女の訪問鍼灸は週2回です。最初に血圧測定や問診が行われ体調の把握が行われます。次に負荷をかけながら腕を引き上げる筋力向上運動、足を持ち上げる下肢筋力強化運動、歩行訓練などのメニューが続きました。

 その後痛いところや動かしにくい部分を聞いて、これに対応したツボに鍼やお灸の治療が行われます。今回は「手三里」というツボにお灸をすえました。

木村さんは鍼灸の効果をこう話します。「改善しているのはほんの少しずつなので、自分ではどこがどう良くなったのかなかなか分かりにくく、もどかしく感じることも多くあります。でも、以前よりは確実に身体が動くようになっていますよ」傍らで鍼灸を取り入れた運動療法の様子を見守るお母さんが言いました。「あんたは家に帰って来た時は全然歩けなかったものね。それから見たらずいぶん良くなったじゃない。50mは歩けるようになったし、トイレに1人で行けるようになったでしょ、本当に助かったわ」

「そういえば、前は今みたいに右手を挙げられなかったし、全然握力もなかったのが力を入れられるようになってきたよね」と木村さん。

「お灸をしても熱さを感じなかったのに、最近『熱い』って言うようになったでしょ。感覚も戻っているのよ。きっと」

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灸をされながら熱さを感じとる木村さん

下肢の筋肉運動療法が始まると、お母さんもそれに加わります。

「私のほうも以前は足元が不安だったのに、一緒にやるようになってからすっかり転ばなくなってきましたよ」

木村さんはこのほかに週2回、近くのデイケアにも出かけています。また、介護ヘルパーによる入浴介助サービスも週2回受けています。3ヵ月に1回、手足の関節可動域、握力、歩行スピードなどを測定しており、木村さんが確実に改善してきたことはデータで示されています。右手の握力は2010年1月の時点で0Kgだったものが現在8Kgに、また歩行スピードは4点杖で3m歩くのに50秒かかったものが、昨年暮れには1点杖で7mを34秒で歩けるようになりました。確実にQOL(生活の質)をともなった行動範囲の拡大が見られます。

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鍼灸を取り入れながらの運動療法

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お母さんも一緒に

いつかは親孝行をしたい

 最近、木村さんは歯の治療を受けています。髙田鍼灸師から訪問歯科医を紹介してもらいました。

「髙田さんとスタッフは、身体のことだけでなく生活の上で困ったことをあれこれ相談に乗ってくれます。本当に頼りになります」 

 2年ほど前から電動車いすも取り入れるようになりました。週に2回ほどお母さんの介助を受けながら電動車いすに乗って本屋に出かけ、ファンのミステリー作家島田荘司氏の本に出会うのも楽しみのひとつです。

「次の目標は1人で外出すること。それがずっと付き添ってくれた母への親孝行になるような気がしています。鍼灸をしてよかったと思うし、これからも続けていきたいですね」

★髙田常雄鍼灸師のお話
私は長年の鍼灸師としての経験を介護と連携して生かすためにケアマネジャーの資格を取得しました。ケアマネジャーは、介護を受ける患者さんがなにをしたいかを聞いてケアの計画を立てることが仕事です。例えば「トイレまで歩いて行けるようになりたい」と希望する患者さんに鍼治療が弱った足のサポートに役立ちそうだと判断すれば、患者さんや家族と相談の上、それを計画に取り入れます。療養が長い人の中には、腰痛や関節痛などを訴えることが多いのですが、連携している他の職種の人はなかなか適切な対応ができずに、「鍼灸で助けてあげて欲しい」というように紹介されるケースも最近特に増えているところです。さらにこれからは在宅鍼灸においては、認知症や脳血管障害などが起因した周辺症状緩和のニーズが高まってくることでしょう。

それぞれの職種が自分の持ち味を発揮しながら、うまく医療連携し、みんなで患者さんを支え鍼灸の力を活かして在宅ケア取り組んでいます。

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