「 鍼灸(しんきゅう)ニュースレター No.14 」をリリース – 在宅ケアと鍼灸〈3〉

鍼灸Newsletter しんきゅうニュースレター  No.14 2014年2月発行

【ルポ】在宅ケアと鍼灸〈3〉

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笑顔で迎えてくれたKさんご夫婦

 90歳、寝返りもできない状態からの回復。「長年にわたる鍼灸との付き合いがよかった!」
 介護つき有料老人ホームに妻とともに入居している90歳のKさんは12年前に脳梗塞を発症し、片麻痺状態が続いています。昨年は腰痛も発症して、一時は介助なしの歩行が困難な状態になっていました。ところが、以前からなじみのある鍼灸治療を再開してみると、痛みは軽減し、可動域が広がって、自力で歩けるまで回復してきたのです。                                 
 
「終の棲家」での日々をサポート

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――おはようございます。昨夜はよく眠れました?
 朝9時、松浦正人鍼灸師はKさんの部屋を訪れると、まずこう尋ねます。
「はい、眠れました」
――寝返りは打てますか?
「ええ、大丈夫です」
 ご高齢とは思えない力のあるはっきりした声。背筋をピンと伸ばして座ることができているようです。
――今、腰はあまり痛くなさそうですね?
「ええ、おかげさまでラクになってきましたよ」
食欲は?トイレは?と丁寧な問診が続きます。松浦鍼灸師はKさんの声を全身で受け止めていました。          

鍼灸は私には合うんです                              

――では、鍼を始めましょうね。
 千葉県のJR市川駅近くにある介護つき有料老人ホーム「ライフ&シニアハウス市川」に住むKさんは、大正12年(1923年)生まれの90歳。2002年に脳幹部梗塞に見舞われ1ヵ月間の入院を経験されました。以後、平衡バランスが戻らず歩行に支障を来たし、要介護度1を認定されています。5歳年下の奥様も要介護3の障害があり、ご夫婦は2008年に同ハウスを「終の棲家」として選び、入居されました。鍼灸がKさんの日常生活をサポートする重要な役割を果たしているようです。

 25年間の鍼灸との付き合い

 2012年6月、Kさんは右腰部に激しい痛みを覚え、寝返りも打てない状態となりました。室内の移動も介助が必要になっていたのです。ハウスと同じビルにある整形外科クリニックを受診しました。
「MRIで2回も調べてもらったけど、『異常はない』と言われてね。コルセットをしたり痛み止めをもらったりしましたが、あまり私には向かなかったようです。2ヵ月ほど痛くて痛くて身動きできずにすっかり落ち込んでいたのですが、お医者さんも、『鍼灸を受けるといいかもしれない』とおっしゃるので、松浦さんにお願いすることにしました」

 じつはもともとKさんは、長年にわたり鍼灸治療を受けていたのです。
「2012の1月まで別の鍼灸師が週1回訪問治療(往療)をしていました。妻と一緒に25年間近く治療を受けてきましたが、その鍼灸師はなにしろ私と同い年の高齢者でした。とうとう昨年『もう引退させてくれ』っていうことになってね。でも、ずっとこの方に鍼灸で健康管理してもらっていたおかげで、私は脳梗塞のほかにはあまり大きな病気をしたことがなかった。風邪もほとんどひかなかったんですよ。だから松浦さんの治療もすぐに受け入れる気になりました」
松浦鍼灸師の往療(在宅鍼灸)は2013年9月に始まっています。鍼灸治療を受けるとまもなく腰部の痛みは軽減され、介助なしで室内移動ができるようになりました。また、寝返りなどの体位の変換もできるようになっています。
「やっぱり鍼灸が私には合っていたようですね。一時期は歩くことさえできなかったのに、今はほとんど痛みを感じない時が多いんですよ」

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少しでも筋肉を使うように
――さあ、鍼は終わりましたよ。ご自分で起き上がれますか?
 松浦鍼灸師の声で、Kさんはスクッと力強く体を起こしました。
「鍼はほんとに気持ちがいいですね」
 満足そうな笑みです。
――では、ちょっと背中の筋肉を動かしてみましょうね。両肩をすぼめて首のほうに寄せるようにしてください。
Kさんは期待以上の動きを見せてくれました。
――今度は少し歩いてみましょうか?
 立ち上がると、スタスタと歩を進めます。松浦鍼灸師は、Kさんが少しでも可動域を大きくできるよう、鍼で硬くなった筋肉を緩めさらに筋肉を使うための動作を促しているのです。
Kさんは、不動産業の会社を成功させ、ご長男を後継にして悠々自適の余生を過ごそうとされていました。ところが、ハウスに入居した翌年、ご長男が大腸がんのため、53歳の若さで亡くな
るという「逆縁」に見舞われています。   Kさんはスタスタと奥さんの待つ居間へ
「今は嫁が会社を継いでくれています。もっともっと見守ってやりたいから、私もまだまだ頑張らなければ」
言葉に力がこもっていました。

Kさんにインタビュー (動画) (画像クリックで再生)

★松浦正人鍼灸師の話
私はライフ&シニアハウス市川にお住まいの方の中で、つねに数名の患者さんの鍼灸治療を受け持たせていただいています。多くは腰痛、肩こりや帯状疱疹後神経痛、リウマチなどの方々です。昨年の夏、Kさんから「鍼灸治療を受けたい」というご相談をいただき、訪問医師、訪問看護師との定期カンファレンスの中で、私が提案して医師から医療保険(療養費)適用の同意をいただき、治療を進めることになりました。医師は、MRI検査では異常が見つからなかったことからKさんの腰痛は器質的な問題ではないと見て、「鍼灸が合っているのではないか」と判断されたようです。Kさんの腰痛は脳梗塞の後遺症のために運動量が少なくなって同じ姿勢をとり続けなければならない身体的ストレスや、心理的・社会的ストレスなど複雑な背景が筋緊張につながって痛みが来ているものと考えられます。最近、認識され始めた「生物心理社会的疼痛症候群*」と推察されます。鍼治療は腰部と下肢を触ってみて硬くこっているところを狙い、寸3・3番という鍼を用いて5~10㎜程度の刺入を行って筋緊張をほぐすようにしています。ほかに体をできるだけ動かして少しでも自力で動いてもらえるように促して、より快適な生活をしていただけるようにと図っています。
私は鍼灸師になって、今年でちょうど30年。高齢社会が進む中で、在宅ケアが求められる時代を迎えました。鍼灸の往療によって、患者さんが終の棲家で安心して暮らせるように支えさせていただくことに、とても生きがいを感じています。

*生物心理社会的疼痛症候群 身体的・心理的・社会的・経済的などの複雑なストレスが要因として絡み合って生じる痛み。在宅医療を必要とする状態の人たちは、原因である疾病や老化の他にこうしたストレスが関わることが少なくありません。加えて自立して動くことが困難(運動困難)で常時固定的な姿勢をとらされているケースが目立ちます。鍼灸治療には、こうした様々な疼痛の背景にまでアプローチできる可能性があります。
             

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